15-9 会談向き
うわぁ、琅邪女王が言った通り。倉の中、空っぽだ。大雨が降るのも大風が吹くのも、雷がバンバン落ちるのも当たるね。
急いで戻ろう、そうしよう。
「プル、シュワッ。」 ナニカガ、チカヅイテクル。カクレナキャ。
言い付けを守って傷一つ付けず、社に戻る。それが焼山、湯溜の社憑き。無形は賢い。だから見つからないように、湿った土に潜るヨ。
うふふ。
・・・・・・動かない。キョロキョロしてる。何を探しているんだろう、グインと伸びた。あれ? この感じ。風使いだ! 浮いている。
「居るね。」
・・・・・・。
「他とは違うから、狭間の守神。この辺りだと焼山。湯溜神の使わしめ、いや違う。湯溜の社憑き。」
〇✕△!
「出て来ない、いや出られないか。そうだよね。」
うんうん。
「はじめまして。儺呼山の社の司、長生です。」
人じゃ無いのに、アッ。儺呼山社は昔、御隠れ遊ばした国つ神の。
儺国に攻められ、滅ぼされた村に残された石積みの社。人の世に留まる事を選んだ隠が住みついて。それで神に御為り遊ばしたトカ何とか。
「儺呼山神はね、人だったんだ。」
死んで隠、隠から妖怪かぁ。人の世に思いを残して、苦しみながら這うように。
「儺国の兵に殺された人の魂が根の国へ行かず、山に集まって鬼になった。そのまま森をウロウロして、滅ぼされた村に残された社を見つけて、そのままグッスリ。」
疲れていたんだね。
「目が覚めると山神でした。」
ほえぇ。
「鬼ってさ、角も牙も生えている。だから驚くんだよ。」
長生は風使いの鬼、なんだね。
「巫の子だからって生贄にされて、骸にドドドと隠が飛び込んで鬼になったのさ。覚えてナイけど。」
そうなんだ。
「人を食らおうとした時、千声さま。儺呼山神の使わしめに救われたんだ。」
良かったネ。
空腹に耐えられず、人を食らおうとした時だった。巨大化した千声に保護されたのは。カプッとされ巣、ではなく社に連れ帰られた鬼は思う。『死ぬ』と。
無言で狸を突き殺す社憑きに睨まれ、死を覚悟。その骸を『食べろ』と差し出され、泣きしながら完食。
長生は人が鎮守の杜に入ると風を操り、遠方に飛ばすので誰も近づかなくなった。シシ肉の味を覚えたので、人は襲っても食わない。
そんな鬼が社の司になったのは、人前に出られるのが長生ダケだったから。
「というコトで今、この辺りを調べてマス。」
とても良く分かりました。一度、社に戻って話し合います。それまで、お待ちください。
「はい。」
無形は使い形、長生は鬼。妖種は違うが思いは届く。
「儺国は、そうだな。大雨が止んで直ぐ、琅邪に使いを出すだろうね。その時、動くのは琅邪王。」
湯溜神の使わしめ、混が言い切る。
「その前に無形、琅邪社へ。」
「プルン♪」 ハイ、ユダマノカミ。
混は気体、無形は流体。この度は安全性の高い、無形が派遣される事になった。混だと全ての動植物を瞬殺してしまう。
会談向き、ではアリマセン。