5-56 蔦山
「長、お待たせ。」
「セン。もう、持ってきてくれたのかい?」
「あぁ。熊の干し肉だ。でも、兎は違うぞ。」
「兎?」
「シゲが持たせてくれた。」
「シゲ・・・・・・あぁ、良村の長か。」
「そうだよ。」
良村の人たちは皆、強い。それぞれが出来ることをして、助け合って生きている。
腕の良い、狩り人や釣り人。他の村との付き合いが、巧みな人。山や林、木のことを良く知る人。作付けを、知り尽くしている人。
少ないが、生き残った人たち。新しい村での暮らしは、厳しいだろう。蔦山の長として、出来る限りのことをしよう。そう思っていたのに、また助けられた。
新しい村を作るために、いろいろな村に頼んでいた。いくら「早稲の他所の」人だからって、受け入れる村は、無い。
早稲は、特に村長と倅のジン。揃って、酷い。聞くのは、悪い話ばかり。釜戸山の裁きを受け、仕置が執り行われたと聞いた時、良かったと思った。
死を喜ぶなんて、良くないことだ。分かっている。それでも、『良かった』と思ってしまった。
「ツネさん。たんと食べて、強い子を産んでくれ。」
「ありがとうございます。」
私にとって、初めての孫だ。母子ともに、生きてくれれば、それで良い。にしても、娘よ。なぜ、熊の肉なんだ?
「長。兎の捌き方、分かるかい?」
「・・・・・・見たことは、ある。」
「そうか。狩り人なら、捌けるだろう。」
「そうだな。ハハハ。」
う、兎くらい、捌けるようにならなければ。それにしても、丸々としているな。いや、そうではない。
「この、兎の籠。良く出来ている。」
「良山の竹で、カズが作った。樵でな、何でも作れる。」
「春になってからで良い。一度、会ってみたい。実は、この山。若い木が育たなくなっているんだ。」
「釜戸山の灰が、多く降るからじゃないか?」
確かに、釜戸山は近い。でも、今に始まったことじゃない。それに、あの山。モクモク煙を吐くが、灰は少ない。噴き出さない限り、困ることはない。
「火を噴けばな。いつもは、そんなに降らないよ。」
「そう、だな。山の土を少し、貰えるかい。」
「あぁ、良いよ。」
「山の手入れは、してるんだよな。」
蔦山の土を確かめながら、カズが。
「見た限りじゃ、整ってた。」
「なぁ・・・・・・地が、震えるんじゃないか?」
ノリがポロッと言った。センもカズも、黙り込む。
「いや、な。そんな気がしたんだ。」
ノリのカンは、当たる。
近ごろ、小さな震えが多い。たまに犬たちが、怯える子のような目をして、すり寄ってくる。
気づかないだけで、震えている。・・・・・・そのうち、強く震える?