15-7 戦は、もう
鎮の西国、焼山で開かれた十王会議。大荒れに荒れると思われたがアッサリ終結。
『今まで通り、これからも仲良く治めましょう』と相成った。
これからも内政干渉せず、十の大国が高め合えば良いのだ。
国が滅んでは建てられイロイロ有ったが、今となっては昔の話。中で揉めていたら外から攻められ、落とされる。そうなれば終わり。例外は無い。
「話し合いで片付いたか。」
「はい。」
湯溜神は焼山に御坐す狭間の守神で、火山の神でも在らせられる。
多くの人から畏れられ、とんでもなく強い霊力を御持ちだ。
使わしめ混は火山ガスの化身。空気より密度が高いので、窪地に溜まりやすい妖怪である。
全ての動植物を瞬殺するため、動植物恐怖症と平地恐怖症を発症。
「無形。」
「プルン♪」 ハイ、ユダマノカミ。
「琅邪社に動きは。」
「プルルン♪」 ワルイノヲ『シュパッ』トシテ、ウミニ『ポイポイ』シマシタ。
湯溜の社憑き、使い形の無形は流動体。
元は人の世に思いを残して死んだ動植物の隠で、焼山で融合しながら力を蓄え変身能力を得た妖怪。流体なので発声できず、心の声で会話する。
空中をフワフワ漂っているが、蒲公英の綿毛と違って、己の意志で素早く動けマス。
「響灘を望む地に在るからな、和邇が喜んだろう。」
「プルプルルン♪」 ズラットナランデ、ナカヨク『パクパク』シテマシタ。
琅邪の女王は『雨降らしの巫』で、生き神として崇められている。王弟は毒使いで、姉弟は鬼になった。
人のまま鬼になった大王は、死ねば真の鬼になるだろう。
『琅邪を大国に』と考えているなら動くが、女王と王弟は琅邪に思い入れが無い。
姉弟に救われた大王は親を殺し、王になった男。望めば空嶽から空霧、社を通せば明里へ移り住める。
なのに離れようとシナイ。
「湯溜神。琅邪の鬼が儺国から離れないのは、いつでも取り込めるからでしょうか。」
「混も、そう思うか。」
「はい。」
卑呼姉弟に、そのような考えは無い。琅邪から奴婢を無くし、卑呼に名を与えて見守ると決めたダケ。
儺国王を消したのは『目障り』だったから。
琅邪の民は少しづつ増え、豊かになっている。
鬼になった女王は水と風を操る力、先を見る力も身に付けた。琅邪が水に困る事は無い。その力を求め、仕掛ければ王弟と大王が動くだろう。
いや、迷わず動く。
「中の西国に、知られなければ良いのですが。」
混が遠くを見つめる。
「戦は、もう。」
湯溜神が御目を伏せ為さった。
「プルン♪」 イクサニ、ナリマセン。
無形の行動範囲は広い。液体になって川に飛び込み、そのままスイスイ海に出ればドコへでも行ける。噴射推進式なので長距離移動もラクラク。
分身体を中の西国に派遣し、各国を詳しく調査した。その結果、治めの八柱が人の長である社の司に『殺し合わず、話し合いなさい』と伝え為さった事が判明。使わしめも動いている。
だから戦にはナラナイよ。