15-4 とっても強いヨ
真中の七国を一つに纏め、七国王になったのは倭国王。頭と口が良く回るが、何でも『なぁなぁ』で済ませる男だ。
他の大王に戦をするよう仕向け、逃げ切ったのだろう。
「事を荒立てるコトは無い。離れているが、気になる。」
卑呼女が呟く。
琅耶は儺国に取り込まれた国の一つ。響灘を望む地に在る小さな国だが、大陸から齎された品がイロイロ出入りする。
ソレは良いが困った事に、禍禍しい品を目にする事が増えた。その度、海神に奉る。
けれど和邇が、いや考え過ぎか。
「ミチ姉さん。瓢の民が言っていた事、信じるのかい。」
瓢の民は、その大半が亡命者。
「イオ。瓢が在るのは鎮の西国、郡山。隠の世では無く人の世の外れ。」
闇が集まり、猫神の目が光る地で仲良く暮らしている。
「郡山で暮らすのを許したのは出雲、杵築大社。伯耆は『強い』と聞くけれど、出雲はなぁ。」
居るよ。昔はヤンチャだったケド、立派になった兎は名家出身。いろんな意味で鍛えられ、逞しくなりました。
「大国主神の使わしめ、稻羽は強いと聞く。」
とっても強いヨ。
瓢の長、滑が桃の実を持って表敬訪問。琅耶ではなく、琅耶社にネ。
琅耶のトップは大王、儺升粒だが琅耶社のトップは女王、卑呼女。イオの姉、ミチである。
因みに姉弟は生き神で、儺升粒は琅耶大王と社の司を兼任。琅耶社に出入り出来る男はイオと儺升粒だけ。
滑が『邪気を払う』とされる桃を手土産に選んだ理由は一つ。美味しいから。
多汁で甘い果実は生食とするほか、種子は漢方で咳止め、葉は桃葉湯として汗疹の薬とし、白い花を干したモノは下剤として用いられる。
ソレは扨置き込めてます、メッセージ。
琅耶は小国だが、多くの国から狙われている。皆、雨降らしの力を持つ、表に出ない巫が欲しくて欲しくてタマラナイ。中でもアブナイのは儺国王。
琅耶に仕掛けて王弟、卑呼男を攫う気マンマンだ。
卑呼は奴婢の子、長生き出来ない。なのに姉弟は生き残り、儺升粒と力を合わせて琅耶を立て直した。民からも慕われ、生き神として崇められている。
そんな女を攫えばドウなるか。方方から責められ、転がり落ちるだろう。だから弟を攫い、意のままにしようと考えたのだ。
「イオ。鬼になって、人に出来ない事が出来るようになった。それでもね、たった一人の弟なの。守りたい。」
「姉さん。」
うるうる、ジィーン。
「儺国が琅耶に攻め込むなら、その前に滅ぼせば良い。これからもイオと静かに、穏やかに暮らせるなら。」
何だってするわ。
「だからね、闇喰らいの品が力を付ける前に取り上げましょう。」
「そうだね。悪いのから取り上げて、海にボンボン投げ込もう。」
不法投棄? イヤだな、違いますよ。キッチリ許可、取ってます。
稻羽がネ。
「ハァ。」
ワクワク和邇さんズ、ゲッソリ。
「沖に出て鯨、狩っちゃう?」
みんなで!
「持ち場を離れて刺されナイかな。隠の世のツンツン鮐にブサッと、グサッと。」
・・・・・・痛いのは嫌。