5-55 大雪
ザクザク、ザクザク。
「ハァ。」
どんより曇った空。刺すように冷たい風。早稲の村を出て、初めての冬。
思ったより、多くの米が手に入った。飢えることも、凍えることもないだろう。
皆、良く笑うようになった。言の葉が出なくなった子が、少しづつ、話せるようになった。
早稲でのこと、忘れられないだろう。子を残して死んだ親たちを思うと、やりきれない。親代わりとして、しっかり育てると決めた。九人いるんだ、何とかなる。
「クゥゥ?」 ドウシタノ?
モフモフする?
「シゲコ。優しいな、ありがとう。」
「ワン。」 ドウイタシマシテ。
わぁぁい、褒められた。嬉しいな。
「ただいま、シゲ。」
「おかえり、シン。で、どうだった。」
「これ、なぁぁんだっ。」
「ん? 塩じゃないか。」
飯田の長は、魚より肉が好きらしい。良山の兎は、獣山の兎より、丸々としている。だから、良い取り引きが出来るそうだ。それにしても、塩とは。
「良く手に入ったな。」
「おかえり、セン。」
「ただいま。」
「おっ、大漁だな。」
「まぁな。そうだ、シゲ。蔦山の長がな、熊の肉が欲しいって。」
「干し肉なら、あるぞ。」
蔦山の村は、他の村との付き合いが少ない。争いごとを嫌い、関わらないようにしているそうだ。
センは長と仲が良く、魚などと引き換えに、畑で育てた食べ物を貰ってくる。
「蔦山の長って、熊が好きなのか?」
シンは、多くの村と付き合いがある。しかし、蔦山の村との付き合いは無い。縁さえあればなぁ、と思っていたので、聞いた。
「いいや、それは無い。怖い目にあったし、出来れば見たくないって言ってた。」
たまたま、熊に襲われているのを見たセンが、舟から銛を投げた。そうして助けたのが、蔦山の長だ。
「誰か、身籠ったのかな?」
「娘さんが食べたいと、言い出したそうだ。」
「食べ物の好み、変わるからな。」
母さんがそうだった。オレが胎にいた時は、甘い物が欲しくなったって。『だから甘えん坊になったのかもね』って、笑いながら話してくれた。
「他にもイノシシ、カノシシのも、あるぞ。」
セツは『エゴマの葉が食べたい』って、言ってたな。
「少し、良いか?」
「良いぞ。兎も持って行け。さっき、捕まえた。」
「きっと喜ぶよ。ありがとう、シゲ。」