14-70 逃げ道は一つより二つ
対国に持ち込まれた闇喰らいの品は、蝙蝠神が清め為さった。
憑いていた獣は大陸妖怪に捕らえられ、天獄に叩き込まれたトカ何とか。
ソレを闇が、名を持つ魂が狙っている、と。
「動かねば。」
鎮の西国には大陸から逃げ出し、生きる事を許された妖怪が居る。
「瓢、だったか。」
大国主神の使わしめ、稻羽が取り仕切っていると聞く。
「残るは。」
中の東国、明里は隠の国。王は悪取神、長は人だ。
コチラも頼れない。
「となると琅邪。」
琅邪の大王、儺升粒は半鬼。女王と王弟は鬼。卑呼女と卑呼男は生き神で姉弟。
社の司は大王、儺升粒。そう聞いた。
女王は水と風を、王弟は物の重さを操る。他にもイロイロ出来るだろう。
同じ鬼だ、頼れば何とか。
「白牙。鎮の西国、儺国にある琅邪へ。」
鎮の西国で清められるとは思わないが、真中の七国に持ち込まれる前に加津の清め水で弱らせる。
国守の娘は釣りが好きで、魚を捌くのも上手いと聞く。
隠から妖怪になり、闇堕ちしたのに戻った。合いの子を引き取り、慈しみ育てている。
港を持つ国だ。海社を通せば、いや吹出社とも繋がっていたな。
「人の国だが王は鬼。人の世と隠の世、暮らす地は違うが話し合おうと思う。」
「はい。」
夜叉神、琅邪社との関係強化を図り為さる。
これからもドンドン持ち込まれると思われる闇喰らいの品を、禍が齎されれる前に何とか出来ればソレで良い。
「ホウ。やまと隠の世に、鬼の神が御坐すと。」
卑呼女がニヤリ。
「はい。」
卑呼男が微笑む。
「会おう。」
儺国は戦好き。琅邪は儺国の一つだが、離れられるなら早く離れたい。
イオが居ればドコででも暮らせるし、隠の世へ移り住むのも。けれど儺升粒。
人と鬼が合わさった大王を置いて、この地から離れられない。
きっと耐えられなくなり、力を押さえられなくなる。そうなれば誰か、いや大祓で。
「その前に、儺升粒に伝えておくれ。日が暮れる前に強い雨が降る、と。」
「はい。」
琅邪は小国だが、卑呼姉弟がアレコレするので川が溢れたり、山が崩れる事は無い。ソレを羨む国は多いが、その筆頭が儺国。
逃げ道は一つより二つ。
「鬼が暮らす山。」
隠の世には、人の世で生まれた鬼を受け入れている。そんな山が在るのか。
「はい。」
鍛冶と炭焼き、酒造で有名デス。
「いつの日か、とは思う。けれど今では無い。」
先ずは杵築大社、それから瓢の長と会おう。叶うなら明里の王、悪取神にも御会いしたい。
「夜叉神に御伝えください。琅邪社として空霧、空嶽の社と結びます。出来る事はしますが深追いシマセン。それでも宜しいか。」