14-68 やっと戦が終わったのに
足りない。足りない、足りない、足りない!
何で。飲んでも飲んでも、食べても食べても満たされないんだ。
爪が伸びた。頭が痛くて歯も、獣のように伸びている。
死んだ、よな。殺されたよな、あの時。
「みぃつけたっ。鬼さんコチラ、社へ御出で♪」
門音が楽しそうに、体を左右に揺らす。
「えっ。」
どんなに踏ん張っても抗えず、ドスドスと歩を進める。
ココは人の世、空嶽。
真中の七国、倭国に聳える御山に建つ空分社は隠の世、空霧に繋がっている。
真中の七国、倭国の北東。空山脈の中央にある鬼の住処。
治めの隠は夜叉神。隠の世から御出で遊ばさぬ、やまと最古の鬼神で在らせられる。
「増えたな。」
遠い目を為さる夜叉神。
「はい。」
項垂れる使わしめ。
新入りの霊力を鑑定し、その能力や本質を精査。不合格者は浄化の後、粛粛と殺処分。するのだが只今、浄化一週間待ちデス。
鬼は山の精霊、荒ぶる神を代表する霊怪。醜悪な形相と怪力の持ち主とされるが、その多くが性別を問わず妖艶。
苦悩する姿まで色っぽい。
「あ、あの。」
ハァハァハァ。
「鼻息が荒いゾ。」
白牙に指摘され、ドキリ。
中国では亡霊を鬼とし、半人半神の霊的存在とされる。
日本における鬼は黄泉醜女に始まり、時代や思想の流れと共に変化。
死の穢れの擬人化されたモノとか、人を喰らう異形の怪物とされているが、全ての鬼が人を食すワケでは無い。
そもそも訪問して来た伊弉諾尊が『言い付け』を守り、待っていたら『あんなコト』にはナラナカッタ。
それは扨置き死後、鬼化する隠が多過ぎる。
「人の世で何が起きた。」
引き離してから問う。
「倭国が勝ちましたが、また王が変わるでしょう。」
真中の七国は一つになった。
大戦を勝ち抜いたのは倭国だが、守りに徹したダケで国力は弱い。
口が上手い倭国王は食料自給率を上げようと、臣を遣ってイロイロしている。けれど難しかろう。
種籾が無いのだから。
「やっと戦が終わったのに、飢えてバタバタ死ぬんだろうな。」
処刑待ちの鬼が呟く。
「土がさ、違うんだよ。」
空霧の土に触れ、一掴み。
「何が出来るだろう。」
鬼になっても、思う事はある。
「残しちまった子、生きてるかな。」
縁の者は皆、死んだ。
己が死ねば頼る者が居なくなる。どうにか集めた食べ物を与え、凍えないよう抱きしめた。他に出来る事が無かったから。
生きてほしい。けれど・・・・・・難しかろう。
それでも何とか。そう願わずにイラレナイ。
「ナンデ殺し合うんだろうな。」
誰かがポツリと呟いた。
「それが人ってヤツなんだろう。」