14-67 他を黙らせる力
真中の七国で大戦が始まり、多くの命が奪われた。
兵になる前に弟、妹の手を引いて逃げた者も居る。山を越えたり海に出たり、川を下って。
生き残りは驚くホド少ない。
「もう嫌だ。」
やっと戦が終わったと思ったのに、また始まった。食べ物を作っても作っても奪われ、もうボロボロ。
「弱いヤツしか残ってナイのに。」
戦に駆り出され、『戦え』と言われる。
何のために、誰のために戦うんだ。王なら、大王なら民を守れよ。
「あぁ、死ぬな。助からない。」
死んで、また生まれるなら他が良い。
行った事ナイけど南国、四つ国に生まれたい。中の東国もイイね。
周囲を濠で囲んだ環濠集落や、丘陵上にある高地性集落が出現。農耕の八拓により安定した食料供給が可能になったが、勢力争いを招いた。
その結果、戦争を生む。
大規模になった集落は農地、水、備蓄食料を巡る争いの中で統合され、各地に小国が生まれる。その小国が大国になり、広域を支配するようになった。
「負けを認めましょう。」
頭、長、臣らが直訴。
『攻撃は最大の防御』とか『攻撃は最良の防御である』とか言うけれど、国家間の全面的な争いになる前に止めましょう。
戦争で死ぬのは弱者です。望んで戦地に赴く者も、我が子を戦地に送りたがる親も居ません。
「今になって退けるか!」
真中の六王が叫ぶ。
ドンパチしたけりゃ己でヤレ。大王を中心とする豪族の主とか長とか、支配するヤツが武器を持って戦え。
民や弱者を巻き込むな。
飢えて死ぬ嬰児、幼児。子に死なれた親の、ガリガリに痩せた我が子を抱いて噎び泣く声が聞こえないか。啜り泣く声が聞こえないのか。
「もう戦えません。」
「このままでは死に絶えます。」
ずっと、ずぅっと戦を続ければ兵も食料も、何もかもが不足して国力が疲弊する。真中の七国は崩壊寸前。
開戦は容易だが終戦は困難、いや極めて難しい。
大王を暗殺しても、その直後に次代が即位。矛を納めようにも手立てが無く、破滅の道を直走る。
生きるか死ぬか、勝つか負けるか。どちらを選んでも、その先にあるのは苦難。
「フッ、フフッ。ワハハハハァ。」
守りに徹した倭国、他の六国が潰し合った事で棚ボタ勝利。アチコチに真中の七国の統一を宣言。
「来た、やっとキタァ。」
鎮の西国と違い、真中の七国は弱者の集まり。
力が無いから東へ、東へ落ち延びる。その末裔が暮らす土地。助け合わずに羨み、欲し、戦を繰り返す。
倭国王は考えた。
中の東国に仕掛けても、送った兵は松田で死ぬ。岸多、近海、氛冶を攻めても同じ事。
きっと何かに守られている。
当代は歴代と違い、中の東国に仕掛けるツモリは無い。
無いが力を蓄え、いつか耶万を従えよう。耶万を落とせば猛毒、『耶万の夢』が手に入る。
耶万社のバケモノを顎で使えるに違いない。
「荒れ果てた地に手を加え、豊かにせよ。米だ! 米を増やせ。」
やまと王になるには、他を黙らせる力が要る。
食べ物を増やせば人も増える。人が増えれば、その他にも。




