14-66 なのに、また
海魚の鱗でも川魚の鱗でも、清め水に浸せば凶器になるワケでは無い。
イロイロ試した結果、胎児の時から清め水で育ち、ゴクゴク飲める合いの子が釣って捌いた魚に限られると判明。
ビタッと張り付き浄化するのは妖怪の血が濃く、社付の国守に引き取られた会岐のミイ、大石のムウ、加津のイイ、千砂のヨヨの四妖。
他は闇を吸収する前にスッと消えてしまった。
「吸鬼、何を隠している。」
鱗入り清め水、再び。
「ギャッ。」
頭から掛けられ、大騒ぎ。
ミイ、ヨヨ、ムウが釣ったのは川魚。イイが釣ったのは海魚。
清め水を汲んだのは祝、運搬したのは妖怪の国守です。
「ズベデ、ズベデ話ジマジダァァ。」
板に張り広げられ、釘で打ち付けられた吸鬼が訴える。
「それはドウかな。」
バシャッ。
吸鬼は聞いた。アンリエヌで生まれた新たな一族が昔、人の体を奪いながら東を目指した話を。才を奪われ退化したが身体能力は高く、その寿命は百を超えると。
己は呪物、祝に接近するのは危険。なら少しづつ力を蓄え、耐性を付ければ良い。
猫又が居るのは中の東国。鎮の西国で移動手段、中の西国で肉体を得たら真中の七国で強化。
そのために人から出る負の感情、悪意や狂気を奪取するのだ。
「ヴゾジャ、ナイィ。」
耐えろ。耐えろ、耐えろ、耐えろ!
どんな姿になっても、いつか現れるバケモノから『全てを奪う』まで存在していれば良い。長期戦に備え、この地で闇をタップリ吸収すれば可能だ。
狙うは新たな一族。
管理される事に不満を抱き、社会構造を崑本的に変革しようと考える若造を取り込めばコチラのモノ。
はじまりの一族は化け王により隔離された大王、王弟、王妹が居るダケ。化け王は無敵だが、その他は弱い。
新たな一族に救出され、民から『王位奪還を』と望まれれば動くだろう。
「地獄に捨てるか天獄で処分するか、なんて考えん。喜べ吸鬼! 天獄へ連行する。」
悪くナイ。
人の闇からは遠いが怠惰で、刺激に飢えた妖怪の巣窟だ。濃縮された悪意を存分に吸収できる。
白澤、いつか後悔するだろう。あの時、処分すれば良かったとな。クックック。
「ココまで拗れるとは。」
寧楽神の使わしめ、カララが呟く。
白澤が吸鬼に苦痛を与えている間、倭国に集結した七王が対立。結果、闇が噴出。
交渉決裂により多紀山と鳰の海の間で七国大戦を始め、勝った国が真中の七国を統べる事になった。
六王を煽動した倭国王は、事前に準備した安全地帯で謀略を巡らせる。
打って出るワケでは無い。他の六国が潰し合うのを、ただジッと待って狙っているのだ。
幸運に恵まれる事を。
「どうして殺し合うのだろう。」
やっと落ち着いたのに。
「闇が、闇が深くなってゆく。」
言の葉が使えるのだから諦めず、話し合いで収めれば良い。なのに、また血を流すのか。