14-65 嘘だと言って
グッフッフッフッフ。ギリギリを攻めろ! もっと激しく燃え上がれ。
「人は良い。闇が、闇が溢れる。流れ込む。」
ウットリしながらクネクネするのは、大陸から持ち込まれた呪物に憑いていた獣。
人の姿をしているが、元は浮かんでユラユラしていた。ソレが長い時を経て固まり妖怪化。主食は生き血だが、嗜好品として負の感情を嗜む。
「あっ、ダメ。出来ちゃう。」
・・・・・・メス、だったのか。
「生まれるぅ。」
早いな。
ブリブリ出してスッキリしたのか、晴れやかな表情をしている。
その生き物に名は無い。と困るので中国妖怪のドン、白澤が勝手に命名。
「やっと見つけた。逃げるな! 吸鬼。」
「ゲッ。」
真中の七王に取り憑き、戦争を繰り返させる呪いの元凶。心の底から嫌そうな顔をする。
「我は高貴なる妖怪。そのような」
「黙れ、吸鬼。」
と言いながら、加津社の清め水をビシャッと掛けた。
「チベタイ。」
「いや、どう考えても温いだろう。」
加津が在るのは中の東国、大貝山の統べる地。ココは真中の七国に在る倭国。
遠く離れてマス。
「氷? いや鱗か。」
加津の妖怪の国守、ミカの娘イイは釣りが得意。
釣った魚の捌き方を婆さまから習い、ジョリジョリ剥がしてニッコリ。ただ捨てるのはモッタイナイので、集めた鱗を乾かして畑に埋めていた。
ある日『鱗を清めてから撒けばドウなるのカナ』と思いつき、加津の清め水に浸してみた。その結果、鱗が水面を覆う。
ツンと突いたら指先に張り付き、剥がそうとしたら血が出て大泣き。
駆け付けたミカがイイを抱え、港に走って海に入る。
スッと消えたと思ったら、傷口がヒリヒリして真っ赤っか。慌てて真水で洗い流し、やっと落ち着き一安心。
「ホウホウ。」
流から聞いた時、『嘘だ』と思ったが本当だったのか。無理に剥がすと血が出るぞ。
「イタッ。」
出た出た。
「見てナイで何とかしろ。」
無理でぇす。だってソレ、海水に浸さなきゃ取れないモン。
倭国には『鳰の海』が在るケド、海じゃなくて湖でしょう? うふふ。
「痛い、痛いイタイ痛い。」
鱗が闇を吸い、大きく厚くなってゆく。
ミカもイイも加津の生まれ。日常的に加津の清め水を飲んでいるので闇とは無縁だが、妖怪なので皮膚にベッタリ張り付く。
会岐のフタ、千砂のモト、大石のクベも試した。結果、大怪我。
海水と清め水を汲んでいたので直ぐに治まったが、使いようによっては強力な武器になると判明。
「縮まないか。」
塩を掛けられた蛞蝓じゃないんだから。
「改名します。私、吸鬼です。」
白澤にも出来ない事、イッパイあるヨ。
「前は?」
「忘れました。いいえ、最初から吸鬼ですぅ。」
涙と鼻水をダラダラ流し、膝をついて号泣。
「耐えろ。三日で消える、らしい。」
・・・・・・お願い、嘘だと言って。