14-61 同床異夢
琅邪社を訪れたのは白牙。やまと最古の鬼神、夜叉神の使い隠である。
白牙も鬼だヨ。
「儺国には妖怪の町、瓢が在る。」
「そうですか。」
琅邪女王、澄まし顔。白牙ピクッ。
「瓢と結び、鎮の西国を守れ。」
「お断りします。」
王弟、即答。白牙ピクピクッ。
「ワシは琅邪女王。王弟と力を合わせ、琅邪大王を支える。儺国は守るがな、他などドウでも良い。」
イオと儺升粒、心の中で喝采を博する。一方、白牙は。
「ソレはソレは。」
眉をピクピク動かし、タイヘンな事に。
「おぉコワイ怖い。」
うん、凄い顔だネ。
「女王ミチ。」
白牙、澄まし顔。卑呼女ピクッ。
「『人の世の事は人の世で、隠の世の事は隠の世で』はじまりの隠神、大蛇神が御決め遊ばした事。守れぬなら今直ぐ、消えてもらおう。」
と言いながら鬼火を出し、ニヤリ。
「ホウ。長く鬼を続ければ、そんな色になるのか。」
鬼になって日が浅い姉弟は、どう前向きに考えても白牙には敵わない。
「解った。闇が隠の世に流れぬよう、力を尽くそう。」
豊かになった琅邪を、鬼火の海に沈めたくない。だから受け入れる。
「では瓢と」
「断る。」
琅邪トップ3、即答。
瓢は儺国に聳える山の一つ、郡山に在る妖怪の町。隠の世では無く人の世の外れで、闇が集まるが猫神の目が光っている地。
『異なる国の民』として生きることを認められ、移り住んだ。
琅邪は人の国。何れ誰かが儺升粒の跡を継ぐが、社の司は鬼であっても人の長。琅邪の民を妖怪に近づける気は無い。
儺国王が知れば使いも出さず、イキナリ攻め込むだろう。その時、琅邪をドウ守る。守り切れるのか。
「鎮の西国で食い止めねば中の西国、中の西国から真中の七国。」
ヘェ、ソウナンダ。
「あの地から闇が溢れれば、やまとが闇に呑まれる。」
オオゴトダネ。
「そうなる前に動かねば。」
フゥン。ソレッテ、オイシイノ?
断言しよう。姉弟は儺国が、いや琅邪が絶滅しても困らない。
鬼化したのだ。その気になれば隠の世、隠の国への移住も可能。
儺升粒に協力したのは前、琅邪王を処刑するため。儺升粒に近づいたのは倅だから。
奴婢が産んだ女は卑呼女、男は卑呼男。人ではナク物。死ねば肥し、育てば肉便器。そんな扱いを受け続けたのだ。歪むのは当然。
アンリエヌの新たな一族、諜報員アンナと諜報技官マリィに協力したのも邪魔だったから。
作戦遂行の妨げになると判断した結果、遠ざける事にしたダケ。愛国心なんて欠片も無い。
「この度、神倉に納められたのは叢闇鉄。対国に入った品も、何れ闇を吸い込んで禍を齎す。」
「なら島ごと閉ざせ。女王も王弟も鬼だが、強いからと駆り出すな。」
黙って聞いていた大王、激怒。
「ワシらは琅邪を守るため、力を揮う。他は知らん。」
プイッ。
「瓢とは結ばぬが、闇喰らいの品は海神に捧げよう。」
琅邪女王、呪いのアイテムを『海にポイします』宣言。その隣で王弟、満面の笑みを湛える。