5-54 アンの叫び
「足りない。もっと、もっと。」
体が腐っていた。おかしい。信じられない、何よ。何が起こったの。
才が消えた。スッと、抜き取られるような、そんな感じがして。奪われたの? カーに、奪われた!
エンを見つけたなら、知らせるはず。でも、何も。そもそも、なぜ誰も来ないの。援軍は? 増援は?
父王は言った。不死の才を持ち帰れと。王命に逆らうなんて、有り得ない。
・・・・・・アイツも、王か。
「アァァァァァ!」
化け王の分際で、王女である私を騙すとは。許さない、許さない、許さない!
随分、経った。王位は・・・・・・、第一王子。エドが、即位したんでしょうね。
ジャドとベンは、王を支えて国を。ウィは、隣国へ嫁いだ? 正妃から生まれたからって、何よ。
私は、第一王女よ。なのに、なぜ、なぜ、なぜ!
「奪ってやる。奪って、奪って、奪い尽くす。」
才を奪われて、飢えた。命を吸わなければ、生きられない。なのに吸えなくなった。
何も考えられなくなって、やっと思い出す。命を絡めながら血を吸えば、と。やっと満たされた。
遅かった。
体が、朽ち始めていた。生きてはいたけど、それだけ。ギリギリで血を吸って、助かった。
それからは、手あたり次第。一滴残らず、吸い尽くす。夢中になって奪っていたら、朝日に焼かれた。
急いで飛び込んだ。家の中にいたヤツ、すべてから奪う。夜になるのを待って、次々と。
「なんでぇぇぇぇぇぇ!」
魂だけになっていた。もう、吸えない。死ぬの? 私は、こんな所で。王女が、こんな姿で?
死ぬ、ものか。死んで堪るか。生きて、生きて、生きてやる。奪って、奪って、奪って、生きる!
闇を抱えた人から、魂を抜く。その抜け殻に入れば、奪えるはず。どうすれば奪える?
体当たり。失敗、突き抜けるだけ。唆す。失敗、不安にするだけ。煽る。失敗、いや、これは。
方法を変えよう。煽って、揺すって、煽る。くりかえし、くりかえし。そして・・・・・・成功!
「足りない。もっと、もっと。」
奪った体を動かすには、多くの魂が必要。村一つじゃ、足りない。戦場なら、いくらでも奪える。どこか、どこか、どこか。
あちらこちらで戦争を起こし、魂を奪いつづける。それでも、足りない。満たされない。
「フフフフッ、フフフフフフフ。」
火種を撒き散らしながら、風見の国に辿り着く。アン好みの、歪んだ魂。もっと、もっと、もっと。
やっと落ち着いた。でも、もっと。欲を出して、干乾びた。どうにか辿り着いた北山で、見た顔が。
「みぃつけた。」
風見の、狩頭だった。