14-55 ヤルしか無いさ
闇喰らいの品は多い。耶万王が持っていた剣も、この度の鉄も闇喰らい。
大陸から持ち込まれた『叢闇』と呼ばれる、禍を齎すソレは神の御力でも壊せないと聞く。
「アキのように己を切り取り、他の何かに植え付けられるなら刻めませんね。」
ユキがポツリ。
「となると守りながら戦えるミカが前に出て、クベが闇喰らいの鉄を包み込む。ソレを清水に放り込み、悪取神のタプタプしない袋に入れ、地蜘蛛の糸でグルグル巻く。の、かな。」
フタがニコリ。
「私たちはミカとクベを支えながら闇喰らいを囲み、切り取らせぬよう力を尽くす。」
モトもニコリ。
「その鉄は今、真中の七国に有るんだよな。」
オトが考え込む。
真中の七国は戦、戦でズタズタのボロボロ。このままでは冬を越せないと分かったのか、大急ぎで畑を整え始めた。
キナ臭いのは叢闇鉄が有る倭国だけ。
「中の東国に持ち込まれるなら、早くても春。津久間か大貝山の地でしょう。兵が、いいえ。人が気付く前に動かさなくては、きっと闇がドッと溢れるわ。」
ユキが言い切り、ゾッとした。
「断れないんだ、ヤルしか無いさ。頼めるか、クベ。」
「はい、ミカさん。」
クベとミカは年が離れているが、人だった時からの付合い。互いを良く知っている。これまでも力を合わせ、いろいろ片付けてきた。
守りたい人を守れず、耶万王を殺す事しか考えない。それでも願った。己と同じ思いをする人を減らしたい、無くしたいと。
「神倉は祝辺、隠の守が建て始めた。倭国は遠い。一山から隠の世に入り空霧、空霧から空分社へ。」
案内役を務めるのは夜叉神の使わしめ、音門。
「いつ出る。」
「二夜、明けたら。」
話し合いの末、叢闇鉄を取り出すのはミカ。閉じ込めるのはクベ。回りを固め、支えるのはフタ、クウ、ユキ、モト、オトの五妖。
勿論ユキの相棒、ユラも加わる。
「ハァ。闇、闇、闇が足りない。闇喰わせ!」
縦穴の底で叢闇鉄、大騒ぎ。
「何だよ、闇塗れなのに清らって。」
ブゥブゥ。
「アレか、あの時か。琅邪の。」
ムッキィ。
卑呼姉弟と儺升粒が捨て身で戦い、海に飛び込んだ。ジュッと清められ、逃げようとしても逃げられず焦ったが何とかナッタ。
それでも弱り、このザマ。
「フン! また来るぞ。」
大陸で大量生産される叢闇の品は、禍を齎す超一級品。方方に送りつけるさ。
「返品しよう、ソウしよう。」
不可だ不可。次はナイぞ、琅邪。
『女王』卑呼女と『王弟』卑呼男は鬼、『大王』儺升粒は半鬼になった。また持ち込まれても眉一つ動かさず、海に投げ込むだろう。
まっ、教えナイけどネ♪ うふふ。
「見える、見えるぞ。」
「黄泉?」
「見えるワケ無いだろう! 土の下だ、ぞ。」
パチクリ。