14-54 断られると困る
霧雲山。正確には霧雲山系だが、その麓で生きられる人は居ない。獣や隠の世へ行けない隠、妖怪がウヨウヨしている。
通り抜けられるのは祝辺に認められた谷河の狩り人と、鍛え上げられた強い忍びダケ。
「狭く細い道の先にあるが、広いので神倉を。」
建てようと思えば建てられるが、どう建てる。
「神倉を建てたとして、守りは。」
・・・・・・。
「あの石室を守られるのは、いや待てよ。」
御山に許し無く入れば、人でも隠でも妖怪でも消えて無くなる。御山で暮らす人は麓に下りない。
「地蜘蛛の糸で包み、神倉に納めれば。」
「あの洞に建てられるのか?」
どうしよう、答えが出ない。
清めと守りの力を持つ祝に、は難しかろう。人の命は短く、今わに乗っ取るカモしれない。となると妖怪の国守に頼む事になるが、引き受けるだろうか。
他から隔て、離すなら大石のクベ。けれど叢闇鉄は恐ろしく強く、濃い闇を纏う品。守りながら戦えるのは加津のミカ。ミカは強いが、苦しい戦いになるだろう。
「断られると困るが、祝辺の守と何とか。」
霧雲山、嗚山のクウが微笑む。
「嗚山社と祝社で、何とか出来るモノなのか。」
加津のミカに問われ、クウが左右に首を振った。
「だよな。」
大石のクベが呟く。
加津に集まったのは会岐のフタ、大石のクベ、嗚山のクウ、加津のミカ、腰麻のユキ、千砂のモト、良那のオトの七妖。
中の東国には他にも、妖怪の国守や祝が居る。けれど顔見知り、というダケで命を預けられるホドの繋がりは無い。
会岐、大石、加津、千砂は結んでいる。良那は津久間の地に在るが、耶万のアコを介して加津と結んだ。
腰麻のユキは国守ではナク祝だが、社を通して明里とも繋がっている。
「この度の事。国守や祝の力でドウコウ出来る、とは思えない。」
フタが切り出す。
「子も小さいし、まだ死ねん。」
モトが言い切った。
「悪取神の御力。大貝神の使わしめ、土さまの糸。山守の頂に湧く清水で何とか。」
「クウさん。ソレ、真ですか。」
オトに問われ、見開く。
「叢闇鉄はアキ、死んだ腰麻の国守とは違います。」
ユキがクウを見つめた。
「そう、なのですが。」
そう言って、クウが目を逸らす。
叢闇の品は他より闇が深い。
どんなに心を強くしても、ほんの小さな間を突いてくる。一妖なら良いが、いや違う。幼子、それも合いの子だ。取り込もうとするだろう。
「闇喰らいの鉄、打てば剣になるのか。」
ミカがクウに問う。
「霧雲山の統べる地なら鑪山。大貝山の統べる地なら風見、夜生。」
鑪山は蔦山、天霧山とも結んだ。良村との付合いもある。釜戸山の灰が届くので、山を守るために動ける強い山だ。
風見は早稲と結んでいるが、見捨てられると滅びると解っているので動く前に知らせる。
夜生は隠れ里だが強く、社を通して明里や早稲とも付き合い始めた。
「持ち込まれても潰される前に、隠の世が動くでしょう。けれど叶うなら、人の世で。」