14-51 禍の塊
多紀神の使わしめ、モモが隠の世へ向かった。叢闇鉄は空嶽にあるので、空霧からでも調べられる。
叢闇の名を持つ品は全て、海を渡ってきたモノ。大陸から齎された禍の種。
消して無くせれば良いが、難しい。
「あの雨でも消えぬとは。」
「夜叉神。人の世に御坐す隠神、明里の悪取神に御頼みしましょう。」
「白牙、お聞き。叢闇は消して無くせぬ。中つ国と根つ国の境に神倉を建て、清めの糸でグルグル巻きにして納めるだろう。それまで動かさず、人を遠ざけるんだ。門音、頼めるかい。」
「はい、夜叉神。お任せください。」
光の雨が降り注ぎ、清らになって三日も経たずに闇が噴き出した。どう考えてもオカシイ。いつ埋められ、いや放り込まれたのだろう。
麓だ、近づける。けれど隠すか? あんなモノ。真中の七王が求めるのは耶万に渡った『王の剣』。
ん、アレを使って作り出す気か?
そんな力、人に有るとは思えない。
・・・・・・分からん! クラクラしてきた。考えるの止める。張り切って見張るぞ、オウッ。
叢闇鉄が真中の七国に持ち込まれたのは、七つの国が戦を始める前。鉄が足りず、早貝から舟を出した。
向かったのは鎮の西国。
持ち帰った品は全て、倭国王が手にするハズだった。
横から奪ったのは保国王。保国王から奪ったのは飛国王。ソレを持ち出し、空嶽の麓に隠したのは倭国の大臣。
「急ぎ申し上げます。空嶽に隠されたのは鎮の西国、儺国にある琅邪大王が海に身を投げ、人から遠ざけた品。触れてはイケマセン。」
空霧の社に飛び込んできたのは隠の世、和山社からの使い。ではナク大蛇神の使い狐、嫌呂。
「アレは大陸から齎された呪い。郡山に御坐す猫神が『キシャァ』っと御為り遊ばすホド、濃く深い闇と強い力を持つ禍の塊。」
と言いながら尾を抱くコンコン。
叢闇の品が持ち込まれたり見つかれば直ぐ、和山社に使いを出して詳しく報せ告げる決まりだ。この度ソレが為されなかったのは、その時、琅邪に人しか居なかったから。
大陸から齎された呪物、叢闇鉄と呼ばれるソレは対国から儺国に入る。
狙いは儺国王。けれど物だ、大王に近づけない。そこで儺国で最も大きな小国、琅邪に狙いを定めた。
「琅邪には大王、女王、王弟が居ります。大王は死んだ琅邪王の倅で、女王と王弟は奴婢の子。卑呼です。」
「卑呼?」
「はい。卑呼は生まれてから死ぬまで、女は卑呼女で男は卑呼男。女王になった卑呼女は巫で、弟は覡。顔を合わせるのも、声を聞かせるのも弟だけ。」
卑呼女は八つから客を取らされ、半月後に脱走するも直ぐに捕まり、暴行されて足を骨折。骨がズレて繋がったため、湿度が上がると痛むようになった。
『天の声が聞こえる』と偽り巫に転職。色で権力者を惑わせ、女王となった。
卑呼男は卑呼女と二つ違いで、母は同じだが父は分からない。奴婢から抜け出すため姉に協力。
毒殺を得意とする『お姉ちゃん子』は、ステキな笑顔を貼り付けた過激派。
琅邪大王、儺升粒は前王の実子として誕生。兄を見殺しにした父を憎み、殺そうとしたのを卑呼姉弟に諭され心酔。
琅邪を認めさせるため漢の国に渡航。親漢儺王の呼び名を与えられる。帰国後、卑呼姉弟のために社を建てた。