5-53 実りの秋
良山は、宝の山だった。クリ、トチ、カヤ、クルミ、ドングリ。アケビ、ヤマブドウ、サルナシ、マタタビ。キノコも多かった。竹があったので、春になればタケノコが食べられる。
「わぁい、木の実みぃつけたっ。」
「見て、見て、キノコ。」
子らは大はしゃぎ。ノリ、カズ、タケ、ムロの四人に、ノリコ、シゲコ、シロ、クロの四匹。子らを守るように付いている。
多くの山の幸が、あっと言う間に籠いっぱい。固い木の実は粉にして、柔らかい木の実は壺に。
『お腹がすいた。寒い。』となると、ロクなことにならない。だから、出来るだけ多く、蓄える。
「こりゃ、凄い。ブドウまであるじゃないか。」
「酒にすれば、米と取り換えられる。」
「ヨシッ。酒を作ろう。」
「さけって、なあに?」
「大人の飲み物だ。子が飲むと、目が回って、ひっくり返るぞ。」
「えぇぇぇぇ、ひっくり返るの? 飲みたくない。」
「子には、こっちの方が良いだろう。」
「甘い匂いがする。」
「ハチミツだ。」
「良く手に入ったな。」
「村を作った祝いにな、もらった。」
ゲンの好きなサルナシの実を持って、獣谷の隠れ里に行ったシゲ。帰りに、サルナシの礼だと、譲ってくれた。
子は、甘い物が好きだ。早稲では、食べるのに精一杯。ハチミツなんて、口にするどころか、見たこともない子が多い。
長らく保って損なわないし、冬を越すには良い。湯に溶けば、体が温まる。食が細くなれば、飲ませられる。
子は・・・・・・ほんの小さなことで、熱を出す。せっかく早稲を出たのに、死なせたくない。
それに、セツの病のこともある。あれは、うつる。今は誰も、咳をしていない。しかし、万が一ということも。
とにかく、しっかり食べて、良く眠る。鶏も飼っていることだし、そう案ずることはない。卵にハチミツ。なかなか口に出来ない、そんな物が揃っているのだ。
「これはな、病になった時に飲むんだ。」
「ひっくり返る?」
「ひっくり返ることはないが、そうそう口に出来ない、そういう物だよ。」
この子たちを、あの病で失いたくない。食が細くなって、水を飲むのも苦しそうだった。
「さぁ、アク抜きだ。みんな、手伝って。」
「はぁい。」
クリはアクが少ない。乾かせば、長らく貯めておける。トチ、カヤ、ドングリはアク抜きしないといけない。アク抜きすれば、美味しく食べられる。
さわやかに澄みきった空を見上げ、改めてシゲは誓った。一人も死なせないと。