14-50 気になる事
真中の七国に御坐す、治めの七柱。多紀に集い座して神議り。
「いつから戦を。」
駒国、甲賀神。
「・・・・・・代替わり。」
保国、壅坧神。
「しすぎて。」
瀬国、五色神。
「分からぬ、か。」
笠国、前狭神。
多紀社で溜息を吐き為さる七柱。
幾度も代替わり為されば、昔の事を問われてもチンプンカンプン。使わしめに聞いてもサッパリ。
『へぇ、ソウなんだ』『そんな事が有ったんだネ』てな具合で困ってしまう。
「光の雨が降ったのに、もう闇が溢れ出した。」
剛国、無患子神。
「困ったモノだ。」
飛国、伊摩神。
「それはソウと、気になる事が一つ。」
倭国、寧楽神。
中の東国、大貝山の統べる地にある大国。耶万の社の司アコは蛇谷の祝、煇の倅で闇の力を受け継いだ。
蛇谷の祝が生まれ持つのは、光を飲み込む強い闇の力。ソレを揮い、地に染み込んだ闇まで清めた。
ココまでは良い。
気が付いたのは光の雨が降り、清らになった明くる日。社の北と東の間に聳える空嶽から禍禍しい『何か』が巻き上がった。
「空嶽には確か。」
「はい、多紀神。空分社を守るのは闇から生まれた門音。夜叉神の使いとして、隠の世ではナク人の世に留まる鬼が居ります。」
やまと最古の鬼神で在らせられる夜叉神は隠の世、空霧の地から御出にナラナイ。因って使い隠、白牙がアチコチ飛び回る。
門音は空嶽から動かず、人の世で生まれた鬼を保護したり、闇を食らって浄化しながら分社を守っている。
人の世に思いを残した骸から生まれ、夜叉神に救われた鬼は大の戦嫌い。
「カララを向かわせましたが、闇が濃過ぎて。」
・・・・・・。
寧楽神の使わしめ、カララは駒鳥の妖怪。
妖怪の多くは闇耐性が低く、濃い闇には耐えられない。隠なら耐えられるが、清めの水を飲まなければ気持ち悪くなる。それが空嶽。
「空分社に運ばれた時、聞いたそうです。『麓の縦穴に、叢闇鉄が落とされた』と。」
ザワッ。
「光りの雨に耐えた鉄は、人から沁み出る悪い思いを喰らう品。」
「となると、寧楽神。」
「はい、五色神。人の手に渡れば戦、飢え、病や何やで死に絶えるでしょう。」
国つ神は人の思い、願いから現れ出られる。
代替わり為さる神は少なく、数多の神が御隠れ遊ばす。そうなれば乱に乱れ、真中の七国が闇に呑まれてしまう。
「大祓、出来るだろうか。」
無患子神が御目を伏せ為さる。
「モモ。急ぎ隠の世、和山社へ。」
「はい。」