14-47 逃さない
中の東国、耶万へ送った兵が戻った。
ある者は空、ある者は地からポンと現れ、ドサッと落ちたと聞いてビックリ。どう考えても人の力では無い。
神、いや祝の力だろう。
根拠の無い自信に満ち溢れた、真中の七王は考える。『耶万を落とす好い時だ』と。
「他の兵は戻りません。バッと花を咲かせて、ドンと散りました。」
生き残り、いや生きて戻された兵が訴える。その目はランランと輝き、眼前の皆を魅了。
「ハッハッハ、そうか。花のように散ったか。」
華華しい最期を遂げたワケでは無い。
「大王。松田と加津には近づかず、夜のウチに光江へ。朝になると人の姿をした何かが胸に。」
顳顬にチクッと痛みが走り、冷静になった兵が思い出す。己にも植え付けられた事を。
「兵の胸に、何だ。」
「お急ぎください。中の東国に送る兵を増やして、耶万をぉぉ・・・・・・ギャッ。」
ヴィシャッ。
国に強制送還された兵が、増員を求めると同時に闇の種が発芽。
勢い良く皮膚を破り、伸びた蔓が大王や大臣を絡め取る。細かった茎がドンドン太くなり、枝を広げてワサワサと舞う。
その度に闇を取り込み、ヴォヴォヴォンと葉を開いて逃さない。
「ギャァッ。」
「逃げろぉ。」
「助けてぇ。」
ポポンと花が咲いた。
柱頭に現れたのは、生きて戻された兵の近くに居た大王や大臣、臣の顔。伸びた花糸が捕らえるのは、その身に闇を宿す民。
「死にたくない。」
「嫌だぁ。」
「放せぇ。」
散った花弁が地を埋め尽くし、モヤモヤと煙を上げる。
ソレを吸った人が胸を押さえて倒れ、干乾びた。落ちた葯が破れ、ブワッと舞い上がるソレは猛毒。
ヴゥゥッ。
花柄がグワングワン揺れ、花床に守られた子房が膨らみ、萼が捲れた。ドンドン膨らむ実が透けピキピキ、メリメリ。
ヲォォッ。
真中の七王が取り寄せたり、奪わせた品は多い。その中には闇喰らいの品もチラホラ。ソレを取り込み巨大化し、ドクッ、ドクッと脈打つ。
倭国王が隠し持っていた勾玉も取り込まれ、巨大化した闇の木が強硬派を筆頭に、闇を抱いた人を残らず取り込んだ。
「♪ そろそろ来る来る 闇が芽吹くよ らららドンドン 降るフル♪」
多紀神の使わしめ、モモ。薄赤色の花を揺らしながらノリノリで熱唱。
多紀山は真中の七国、その真中に聳える。
北から時計回りに笠国、駒国、倭国、飛国、保国、瀬国、剛国。
七本の巨木が神楽鈴のように多く群がって房をなし、ぶらんブランぶら下がった。
ドォォン! ヴァラヴァラヴァラァッ。