14-43 もう戻れない
真中の七国は変わらない。
生まれる子も育つ子も、ウンと少なくなった。なのに戦に駆り出され、そのまま戻らない。
足りないからと、幼子まで。
「鳶?」
港と沖の間に浮かぶ舟。舳に鳶が一羽、止まっている。
「上手いな。」
ヒョイっと釣り上げ、魚籠にポン。また釣り上げた。舳の方へ投げたのか、鳶が銜えて羽をバタバタ。
「加津の女だ。」
編んで纏めた髪に赤い布を結んでいる。貝の首飾りをしているし、加津の娘に違い無い。
「グヘヘ。」
兵頭が下卑た笑いを浮かべる。
「・・・・・・えっ。」
舟に乗っていたのは妖怪の国守ミカ、その娘イイ。
ミカの姿が見えなかったのは、ゴロンと寝転がっていたから。イイが釣りをしていたのはロロのため。
加津神の使わしめ、ロロは鳶の妖怪。
昔は死んだ獣や魚の骸を食らっていた。けれど、もう戻れない。取れ立てピチピチの味を覚えてしまったから。
「ロロさま、そろそろ。」
「ウム。」
ゴックンしてから飛び立ち、船団の上をグルリと一周。それから耶万へ向かう。
ミカが闇を伸ばし、串刺しにしたのは水手に兵頭。イイを舐めるように見た兵。
ボタボタ流れる血が海を染めれば、ハイその通り。現れますヨ。毎度おなじみ、ワクワク和邇さんズ。
「ギャァッ。」
加津の港を奪い、言えないような事をアレコレ考えた。相手は国守、それも妖怪。隠せません。
「囲まれたぁ。」
海に落として良いのは人だけ。舟とか戦の具とか、腐らないモノは沈めません。
「これこれ、ワクワクを抑えなさい。」
海神の使わしめ、甲が鰭をヒラヒラさせながらニコリ。
「ハイッ。」
和邇さんズ、キリッ。
釣り人や渡り人を襲ったりパックンすると、ソレはソレはキツク叱られる。だから言い付けを守り、ズラッと並んで待ってマス。
和邇さんズが囲むのは、ミカの闇に掴まれた舟だけ。他は知らんぷり。
とはいえ相手は地上最大の肉食動物。ホッキョクグマや地上最大の動物、クジラをも襲う海の殺し屋。『恐れるな』と言っても無理ムリ。
「急げ、漕げぇ。」
水手はモチロン、兵も椀やら何やら持ってセッセと水を搔いている。
加津に近づき、イイを舐めるように見たのだ。怒るのは当たり前。メラメラと燃え上がる強い感情が闇に現れ、千手観音菩薩の御手のよう。
ミカは体長30m、体重200tの白長須鯨でも一撃で仕留めるからネ。強いヨ。
海中では最高時速80㎞で移動し、鋭い牙で攻撃を仕掛ける和邇。頭も良いので仲間と連携し、獲物を捕獲する。海においては敵ナシ。
そんな和邇でもミカの前では皆、良い子になりマス。だってコワイもん。
「うわっ。」
入海でもソレナリに揺れる。急げば急ぐほど、慌てれば慌てるほどシクジる。
櫂を舟に激しく打ち当てて折ったり、ツルっと手放したりネ。