14-42 変わってほしい
真中の七国がザッと清められた。けれど光の雨が降る前に漕ぎ出した舟は、濃く深い闇を纏ったまま。
そんな舟が中の東国、明里の沖に現れた。
「またか。」
沖から一隻、松川に入った。
「おや。」
続いて入ると思われたが、沖で待っている。
松田に入った兵は逆さに吊られ、松裏で死ぬ。舟と残された品は良く調べ、明里で使ったり他に渡す。
いつもの事だがドウなんだ?
「浦辺へ向かう気か。」
悪取神が右の御手を伸ばし為さる。と同時に張り巡らされた糸が垂れ、タプタプ袋が大きく開く。
水を離れた舟が引っ繰り返され、乗っていた兵も積まれた荷も纏めてジュジュジュと融けた。
沖からでも見えたのだろう。急いで東へ向かう。
もし真中の七国に光の雨が降ったと、漕ぎ出す前に知っていたら。そう思わずにイラレナイ。
戦に駆り出されて飛国に入り、海に出て火の山島をグルリと回り、大貝山の統べる地へ。
生きるため、生まれ育った地を離れたのでは無い。戦を仕掛けるために来た。
断れなかったのか、他に選べなかったのか。何か有るのだろうが死ぬ。
「漕げ漕げ、離れろ。急げぇ。」
松田、浦辺にも入れない。なら加津の港を落とし、アレコレ奪おうと考えたのだろう。
「明、加津社へ。」
「はい、悪取様。」
松裏と浦辺の真中、崖上からタッと加津へ向かう。糸の上に上がり、そのまま駆けてネ。
「もう嫌だ。」
兵の一人が呟いた。
「あの話、真だったんだ。」
違う兵が目を伏せる。
「死ぬのかな。」
幼い兵がポツリ。
真中の七国は戦、戦でボロッボロ。
子が生まれても育たず、育っても弱く、多くが三つで死ぬ。なのに育った子まで戦に駆り出され、腹を空かせたまま死んでゆく。
子を産め、育てろ。そう言われても食べる物が無ければ乳が出ず、産んでも弱って死んでしまう。
中の東国や南国に移り住みたいが、山を越えたり海に出るのは難しい。中の西国も真中の七国と似たようなモノ。なんて聞けば、もう諦めて死ぬしかない。
「死ぬ前に腹いっぱい、食べたかったなぁ。」
中の東国は豊かで、美味しい食べ物がイッパイある。そう聞いた。
「戦好きを押さえられる、そんな国にさ。」
生まれたかったよ。
良く聞くのは岸多、近海、万十、氛冶。他にもイロイロあるんだろう。戦嫌いで強い大国が。
風見と早稲から捨てられた耶万は、王や臣より社の司が強くなって変わった、豊かで暮らし易い、良い国になったって。
「変わるかな。」
「どうだろう。」
「変わってほしいよ。」
守りたい誰かを残して、こんなに遠くまで来た。『戦なんか嫌だ』『戦場に出たくない』。思っても言えなかったんだよ。
ごめんな。生きて戻れそうに無い。