14-41 眠れなくなっちゃうヨ
風見が散蒔いた禍の種は、戦好きが多い真中の七国、中の西国、鎮の西国で芽吹き、根を下ろしたのだろう。
ドコもズタズタのボロボロ。
中の西国、鎮の西国はマダ良い。
大国主神の使わしめ、稻羽から条件付きで人の世の外れに『異なる国の民』として生きることを認められ、郡山へ移り住んだ瓢の民が居るから。
瓢は国ではナク妖怪の町。在るのは鎮の西国、儺国。隠の世では無く人の世の外れ、闇が集まるが猫神の目が光っている地。
悪さ出来ない、する気も無い。そんな瓢の皆が力を合わせ海の向こう、大陸から齎されるアレコレを片付けるのは瓢を守るため。
「聞いた話では、いや止そう。」
エッ、気になる。眠れなくなっちゃうヨ。
「月隠さま。どんな話を耳にされたのか、お聞かせください。」
夜生神の使わしめ、月隠は鬼。
強国に襲われ死亡した隠が水を求め、椎の川で融合し卵生。散歩中の夜生神に発見され、お持ち帰りされる。
朔の夜、社で孵化したので『月隠り』からツゴモと命名された。
人の世に思いを残した隠が融け合い、生まれるのが妖怪。多くは人とは違う姿をしているが、鬼は人に近い姿をしている。
卵から生まれた月隠は、他の鬼より鋭く強い。そんな鬼が口にして引っ込めたのだ。
「良い話ではナク悪い話なのでしょう。けれど、このまま聞き流せません。」
シュルっと蜷局を巻き直し、言い切る。
「黒目さま。風見の民が早稲との結びを解かぬよう、見張りながら導いてください。」
鬼が人に近いのは、その姿ダケでは無い。考えも人に似ている。
だから分かる、分かってしまう。もし風見が早稲から離れたり、その結びを解けばドウなるか。
早稲は変わった。けれど風見は今も昔も、他の地に禍を齎している。
戦を仕掛ける事は無くなったが、仕掛けられたり攻められれば潰す。里でも村でも、国でも大国でも攻め滅ぼす。
「早稲。」
「はい。」
早稲の狩頭は昔、早稲の民から『早稲の他所の』人と呼ばれ、酷い扱いを受けていた人の生き残り。長の妹と契り、親になった強者。
年老いた今も、長より民に慕われている。そんな男が『風見を切れ』と言ったら?
「早稲の狩頭も良村の大人も『早稲の他所の』人と呼ばれ、言えないような扱いを受けた。村外れで暮らす人は生きて戻る度、『いつか早稲を出て新しい村を作ろう』と話す。それが釜戸の祝に許され、出来たのが良村。」
ゴクリ。
「良村の若いのは他から託されたり、救い出された子。年老いたのは生き残り。子を親から託された宝と考え、慈しみ育てている。」
「早稲の狩頭は『早稲で生きる』と決めたダケで、早稲の民とは違う。早稲は良村と結んでイナイけれど、見聞きしたアレコレを伝えている、と。」
「その通り。」
良村には大蛇神、良山には大実神が御坐す。大実神は実り、早稲神は食べ物の神で在らせられる。
良山と早稲は離れているが、同じ中の東国。
良山には大蛇神の愛し子、マル。釜戸山には釜戸神の愛し子、エイ。乱雲山には雲井神の愛し子、フク。
マルとエイは顔見知りで、エイはフクと社を通して付合いがある。となると、全て筒抜け?




