14-39 こちらを
井上、采、大野、久本、安、安井に裏切られ、滅ぼされた国は多い。中でも阿倍、綾部、嶋田、冨井は戦好きで、多くの里や村を襲う。
その生き残りが夜生の民。
森に入っていたので助かったが、他は戦好きに殺された。残らず真中の七国に売られ、戦や病で苦しみながら。
荒れ果てた地は野から森になり、壊された石積みの社が訴え続ける。『奪うな』『話し合え』と。
「風見神。夜生は他と結ばず付き合わず、夜を生きる強くて賢い民。早稲は村ですが風見は国。里に近づけば迷わず、その命を奪うでしょう。」
早稲と風見は結んでいるが、早稲社と風見社は違う。
早稲神は御饌津神で戦嫌い。風見神は軍神で、『一日一禍』を戒めと為さる禍津日神で在らせられる。
「早稲には祝が。」
「はい、居りません。これからも生まれませんが、見える目を持つ社の司が間に立ち、守るでしょう。」
早稲の社の司は皆、見える目を持つダケで腰抜け。けれどイザとなれば体を張る。
社の司は人の長だから。
「動いたか。」
「いいえ。狩頭が村長、大臣、臣を説き伏せました。」
風見との結びを解く事は無い。けれど隠れ里に手を出すなら迷わず、守りながら戦う。
早稲は村だが、いつでも国にする力を持っている。知られた話だ。
生まれ変わった、と言って良いのか分からない。けれど早稲に残る事を選び、親になった男が一人。
長や臣、民から慕われ狩頭となったカツは、戦ではナク商いで繋がる道を作った。だから長より狩頭の思い、言の葉が良く通る。
社の司のソレより、ずっと。
「風見神、こちらを。」
コトッと置いたソレは、恐ろしく濃い闇を纏った石器。
「ナッ。」
風見の民が昔、良く使っていたモノに似ている。
「風見の品です。」
ソウダトオモッタ。
「真中の七国、飛国か倭国の兵が持ち込んだのでしょう。松裏で暮らす合いの子が触れ、右の肘から先を失ったとか。」
ゾゾゾ。
「明里は隠の国。扱いに困り加津、加津から良那、良那から早稲へ。」
加津社の隣には清めの泉が、涸れる事なくコンコンと湧いている。強い清めの力を生まれ持つ祝も居る。
なのに耶万ではナク良那を頼ったのは、『狐にしか扱えない』と思ったから。
清めの水も祝の力も、この禍禍しい石器を清める事は出来ても、丸ごと消して無くす事は出来なかった。
山守の呪い祝を消して無くしたのは、神でも神の御力でも無い。
縁ある狐の力だ。この石器もテイのように、縁ある者か何かが力を揮えば。いや、縁が無ければ消して無くせない。そう思い、頼って託す。
加津は大貝山の統べる地、良那は津久間の統べる地にある。遠く離れているが加津にも良那にも妖怪の国守が居り、社を通して付合いがある。
だから知っていた。
狐には人に扱い切れない困り事を、アッと言う間に片付ける力がある事。
良那神も早稲神も御饌津神で在らせられ、狐を使わしめに為さったモフモフ好きでも在らせられる事などナド。
「風見の品を真中の七国に流したのは、戦に要る品と引き換えにした采、大野、安でしょう。」
ドキリ。
「昔の風見は大野、安にアレコレ流していたと聞きます。風見神。どうか、どうか御急ぎください。この品、闇喰らいです。」
ギョッ。
「瀧、碎。」
「はい。」