14-37 何トカなりませんか
大野と采の真中に放り出された破落戸は、生まれ育った地に深く根を下ろした。
アチコチから噴き出し、濃く深くなっていた闇をパカッ、パカッと開く葉がグングン吸い込む。
ポン、ポポンと咲いた花は禍禍しい。
「逃がさん。」
柱頭にサゴとゴズの顔が現れ、花糸がビヨンと伸びた。
「助けてぇ。」
逃げ惑う兵を捕らえ、巻き戻る。
大野と釆の民が腰を抜かし、ジョワッと漏らす。
その匂いに引き寄せられたのか、花糸が鞭のように撓いながら伸び、取り込んだ。
大野も采も元は大国。里や村、国もあった。
耶万に組み込まれて数十年。人が増えれば、それだけ悪巧みする輩も増える。結果、阿鼻叫喚の巷と化す。
「ヴゥゥゥ。」
負の感情をタップリ取り込み、実が大きく膨れた。
「ヲォォォ。」
鈴生りの実、全てが今にも弾けそう。
ヴァン! ヴァヴァン、ヴァン。
闇の実が弾け、大野と采に光の雨が降り注ぐ。ソレを浴びられたのは嬰児、気絶した幼子。闇を吸われても死ななかった民。
王から預かった兵は皆、死んだ。いつもなら一人、生かして戻すが此度は戻らない。
闇の種が育つのが早く、戻したくても戻せなかったから。
「終わったか。」
「はい、風見神。」
使わしめ、黒目は黒蛇の妖怪。闇に呑まれた事が無いのに黒蛇になった。
「おや、斑に。」
「エッ。」
自慢の漆黒ボディに白い斑点が!
「いぃやぁぁ。」
蜷局を巻いたまま、頭を揺らして絶叫。
風見社は『一日一禍』をモットーに日々、禍の種を撒き散らす困った社として有名。
風見の民は耶万との結びを解いたが、風見社と耶万社は違う。
風見神も耶万神も禍津日神で在らせられる。
因みに早稲神は御饌津神で、早稲社に祝は居ない。
社に御籠り遊ばす前に継ぐ子、それも男から社の司を選び、見える目に変え為さった。
「ごめんください。早稲から」
「アッ、実さま。この白いの、何トカなりませんか。」
「光の雨に打たれ、清められたのですね。」
黒目が目を潤ませる。
「古い皮を脱ぎ捨てる時、真っ黒に戻りますよ。」
パァっと明るい表情になった。
「黒目さま。こちら、風見の祝が石にした闇では?」
「そのようですね。ん、どうして。」
「狩り人が早稲の外れで獣を捌いた時、腹の中で見つけたそうです。獣は額に傷を持つイノシシで、石を外すと骸が腐り、ドロドロになったトカ。」
ホウホウ。
「直ぐに離れ、川で身を清めたのが良かったのでしょう。皆、健やかです。」
トントン。
「黒目さま、碎です。その石、少し宜しいでしょうか。」
風見社の祝、碎が声を掛けた。
立ち聴き、盗み聴きでもアリマセン。近くを通ったら、たまたま声が聞こえたんデス。
「ウム。触れるでナイぞ。」
「はい。」