14-36 良く聞け
風見と早稲は耶万との結びを解き、離れた。
耶万王は悪巧みする度、苦しみながら死ぬ。けれど『耶万の夢』は広く知られ過ぎて、もう手放せなくなっていた。
だから強めたり弱めたりして、薬としても使えるようにしたのだ。
「ヴッ。」
「ガハッ。」
ココは『垂れ流しの獄』。風通しは良いが、他の獄と違って光は届かない。
ヌッと出た闇の手に顎を掴まれ、額を押さえられ口を開く。
底を抜いた瓢箪を突っ込まれ、喉の奥にドクドク流し込まれたのは『耶万の夢』。薬としても使えるが、直ぐに死なないダケで毒は毒。
力が入らなくナルよ。
「良く聞け。耶万に背くなら、大野も采も潰す。」
サゴとゴズを気遣う事なく言い切ったアコの目は、恐ろしいホド冷たかった。
「ハッ、ジジィに何が出来る。」
「サッサとクタバレ、糞ジジイ。」
アコが獄の扉を開き、後ろ手に縛られている二人に近づく。毒突いていたサゴとゴズが怯み、尻を擦りながら下がった。
アコは蛇谷の祝、煇の子。守りに強い。
年老いたが祝の力を持たない、若いダケの男には負けません。
「聞く気は無い、と。」
迫力満点。
「久本と組んでも、真中の七国から兵を集めても耶万には勝てん。諦めろ。」
そう言って背を向けたアコに、サゴとコズが襲い掛かった。のだが。
「こう、なったか。」
闇の種をバババと植え付けられ、蜂の巣になった二人。互いに見合い、ニュッと体内に入るソレに恐怖する。
「な、にを。」
ガタガタ震えながら問うも、アコが振り返る事は無かった。獄の扉が閉じられ、閂が掛かる。
「アサ。悪いが急ぎ、頼む。」
「はい。」
慌てて柵に近づこうとするが、思うように動けない。
「ギャァァァ。」
足元が開き、ストンと落ちた。獄も暗かったが、もっと暗くて冷たい。
耶万と采、大野は離れている。
アサの闇の力で進むのは水筋ではナク地層の間。ジグザグと縫うように進むので、場所によっては骨が砕けそうなホド狭くて細い。
『何でコンナ事に』とか『許さねぇ』とか物騒なコトを考える度、闇を抱くのでスクスク育つ。メキッ、バキッと音を立てるが、サゴもゴズも其処では無い。
動けないのだ。
メリメリにょきにょき、グチャグチャと聞こえてもソレが『己の体から』ではなく『外から響く何か』だと思っている。
「ワッ。」
初めにポンと出たのは大野。ゴズが地に落ちた瞬間、皮を破って発芽。グングン伸びて葉を広げ、ポポンと花が咲く。
「ギャッ。」
次にポンと出たのは采。サゴが地に落ちた瞬間、皮を破って発芽。根を下ろし葉を揺らし、ポポンと花が咲く。
大野と采に居た兵たちは思い出す。昔、年寄から聞いた話を。
闇の種を植えられた人が悪い事を考えれば、体の中で芽吹く。ソレが皮を破ると助からない。
「逃げろぉ。」
柱頭に顔が出て、花糸が伸びる前に離れなければ死ぬ。