14-33 そんな顔するな
耶万に戦を仕掛け、破れて組み込まれた国。
その多くは会岐、大石、加津、腰麻、千砂のように少しづつ持ち直し、穏やかに暮らせるようになった。
けれど中には耶万を打ち倒そうと焦り、競う合うような物言いや行いをする国もある。それが悦、采、大野、光江、安の五つ。
中の東国にも風見や早稲のように、戦で良い思いをしようとする国も在る。
けれど多くが大国か、いつでも国に出来る強い村。隙なんて見せない。だから真中の七国を狙った。
七王を口説き落とせれば兵を出させ、耶万に仕掛けられる。そう考えたのだ。
「なぁゴズ、オカシイと思わないか。」
采のサゴが声を掛けた。
「ん、何が。」
飛国の兵は悦のモウ、光江のカンと共に松田で捕らえられ、松裏に運ばれ合いの子に食い殺された。
ソレを見届けたモウとカンは耶万の獄へ送られ、社の司に闇の種を植えられる。
実が弾け死に、光の雨を降らせて消えて無くなった。
倭国の兵は安のゴリと共に浦辺へ向かったが松川に引き込まれ、松田で捕らえられ松裏へ。
兵が合いの子に食い殺されるのを見届け、耶万の獄で闇の種を植えられた。
真中の七国、多紀に送られモウとカンと会うも実が弾け、死ぬ。
光の雨を降らせ、消えて無くなった。
「何がって、浦辺には倭国の兵がさ。」
「ゴリの事だ、奥へ進んだんだろう。」
ゴズもサゴもモウ、カン、ゴリが死んだ事を知らない。先に送られた倭国の兵、飛国の兵が戻らない事も。
「ハハッ、そうだな。水とかさ、奪いに行こうぜ。」
「奪うってサゴ、どこで。」
「決まってるだろう、加津だよ。」
「止めとけ。加津には、千砂にもバケモノが居る。」
采は大磯川から西へ入り、ずっと進んだ先にある。大野は大磯川の東、少し進んだ所。海まで遠いが、出ようと思えば出られるので知っている。
千砂と加津に妖怪の国守が居る事を。
「バケモノったって人だろ。」
「違う! アレは人じゃない。」
死んで隠になり、イロイロあって妖怪になった。
人の世に留まり国守になったのは、生まれ育った地を守るため。
生き残った合いの子を引き取ったのは、生きたくても生きられなかった親から託された、たった一つの宝だから。
だから慈しみ、育てている。
妖怪の国守に引き取られた合いの子は、明里の子とは何もかも違う。
まず、妖怪の血が濃い。父が誰なのか分からないが、母が生まれ育った地で生まれた。合いの子だが社の子ではナク、国守の子として生きている。
「・・・・・・分かった。だから、そんな顔するな。」
サゴが諦めたと知り、ホッとする。
「千砂、いや白い森の北まで進もう。そしたら川から上がってさ、ゆっくり休もうぜ。」
「あぁ、そうしよう。」
浦辺に泊まっているハズの舟が一隻も見当たらず、このまま休まず川を上がると知った兵たちは思った。このまま進んでも良いのか、と。
大磯川の向こう、加津との間に舟が一隻。釣り糸を垂らしているのは親子だろうか。
何となく喉元に剣を突きつけられたような、とても嫌な感じがする。
「オイ、あの森の北まで漕げ。」
「はい。」
兵たちは逃げるように漕ぎ、大磯川に入った。