14-32 終わったよ
光の雨が降っても、地に染み込んでも、真中の七国は闇塗れ。
「清らになれぇ。」
倭国を治め為さるのは御饌津神。人に望まれ、禍津日神として現れ為さった。
けれど、戦より農業に興味を御持ち遊ばす。
「寧楽神。」
目を輝かせているのは駒鳥の妖怪、使わしめカララ。
寧楽神が代替わり為さる度、厳しく御育てするのは怯える事なく大きな声で、力いっぱい囀りたいから。
真中の七国に光の雨が降り注いでも、大祓の儀が執り行われていても嫌な感じがする。
国と国の戦が止まり、話し合いが進んでいる。けれど、悪い事が始まりそうだ。
「何の何の。」
瀬国を治め為さるのは海運の神。
「五色神、流れを御読みください。」
使わしめ瀧は人を酷く嫌う蛇の妖怪。
「オウよ。」
代替わり為さる度、軍神として現れ出られる。けれど戦嫌いに御なり遊ばすのは、瀧がコンコンと昔語りをするから。
歴史から学ぶってヤツですヨ。
七王は中の東国に送った兵が戻らず、このままでは冬を越せないと考えた。だから話し合いで戦を止め、民と食べ物を増やす事にしたのだ。
けれど思い通りにナラナイ。
アチコチで小競り合いが続き、骸から流れた闇が溜まってゆく。
「サッサと清める、負けないゾ。」
飛国を治め為さるのは山神。軍神として現れ出られても、山神として御力を揮われる。
「はい、伊摩神。」
使わしめ篠は九尾の妖狐。伊摩神が代替わり為さる度に人に化け、実践訓練を実施する武闘派。
真中の七国から闇が噴き出したのは、雪が解けたのに春が来なかった夏。
日は照るのに暖かくならず、夜に凍えて死ぬ人が増えた。嬰児や幼子がバタバタ倒れ、弱って動けなくなる。
雨が降らず泉が涸れ、川まで細くなれば『他から』と考える。けれど他の地もスッカラカン。頼りたくても頼れないなら水が多く、豊かで暮らし易いトコロへ。
とはナラナイよね。
「山での暮らしを守るためぇぇ。」
保国を治め為さるのも山神。軍神として現れ出られても、山に御籠り遊ばすのは人が嫌いだから。
「壅坧神。一度、大きく息を。」
使わしめ蝮は人に嬲り殺され、同じ苦しみを抱く隠を取り込み妖怪化したマムシ。
「そうだな。ありがとう、蝮。」
壅坧神が代替わり為さる度、蝮は静かに語りだす。蛇だった時、何が起きたのか。どんな思いで死んだのかナドなど。
真中の七国に移り住んだ人は考えた。一から作るのが難しければ、他から奪えば良いと。
この地で暮らす人は生まれつき、戦が好きなのか。いや違う。
鎮の西国、中の西国も戦好きだが大陸からイロイロ入ってくる。ソレを使えば強くなれるから、もっと強くなろうと考えてしまう。
真中の七国は強くなりたい、というより生きるために奪おうとするダケ。
「終わったよ、モモ。」
「はい、多紀神。」
光の雨に続いて執り行われた大祓により、真中の七国から闇が噴き出さなくなった。