5-51 良い村にしよう
「この川を、上ればいいのか。」
「舟で行ける。滝の近くに、船着き場がある。コタかソラがいるはずだ。いなければ、戻るまで待ってくれ。」
「わかった。で、シゲは?」
「オレは、熊実に行ってくる。」
「そうか。他に、誰か来たか?」
「いいや、センだけだ。今はな。」
「そのうち来るさ。」
「そうだな。じゃあ、行ってくる。」
「オウ。気をつけてな。」
早稲の社の司に託した、皮の切れ端。あれを見れば、分かるはずだ。
「シゲ。シゲじゃないか。」
「タケ、シロ。良く来てくれた。」
「思い切ったな、熊実か。」
「いや、違う。」
「違うのか。じゃぁ、どこだ?」
「ワン、ワワン。」 ア、キタヨ。
「どうした、シロ。」
「ワン。」 ヨッ。
「ムロ。来てくれたのか。」
「クロもいるぞ。」
生き残った大人は、思ったより少なかった。シゲ、カズ、ノリ、コタ、コノ。セン、タケ、ムロ。シンを入れて、九人。他は、死んだ。
しかし、子は多く残った。子は宝だ。この冬を越せたら、獣谷の隠れ里から、人を迎えても良い。
「へぇ、良い山じゃないか。」
「出るって言うから、おどろおどろしいのかと。」
二人とも、楽しそうだ。
「気になるか?」
シゲ。念のため、聞く。
「人の方が、恐ろしい。」
タケが言い切る。
「確かに。」
頷くムロ。
舟をひっくり返して頭の上に乗せ、運ぶ。タケの背負子は、シゲが。犬にも、荷を運んでもらう。三人と三匹、仲良く村へ。
「シロ、クロ。良く来たな。ヨォシ、ヨシ。イイコ、イイコ。」
「ノリ。相変わらずだな。」
笑いながら、ムロ。
「ヨッ。干し肉、やっても良いか。」
ノリは人より、犬が好き。
「あぁ。」
「いいぞ。」
タケもムロも、ニッコニコ。
「ヨシ、ヨシ。お食べ。」
「ワン。」 ハァイ。
「ワワン。」 アリガトウ。
シロもクロも、大喜び。ブンブン尾を振る。
「それにしても、冷えるな。」
「そうか?」
「女は、冷えるんだ。」
「あっ、忘れてた。」
ムロの背をバンと叩くタケ。タケは、女性です。
「わぁぁ。タケさん、ムロさん。」
「シロ、クロもいる。」
良村の子は、ワンコが好き。
「みんな。手伝いかい? 偉いね。」
タケに褒められ、ニッコニコ。