14-25 また生まれたのか
鸊鷉の古名は鳰、大きさは鳩くらい。
趾の両側に付いている膜が蹼の働きをするので、巧みに潜水して小魚を捕食。典型的な潜水性の鳥で大きな湖や川、内湾などに生息。
「兎は食べないヨ。」
食べるのは主に小魚デス。
「ヨイサッ。」
巨大化してから目を回す兎を咥え、地をスイスイと進む。ペタペタ歩くより早いからネ。
御嶽社ではナク多紀社へ伺う予定だったのだが、使わしめを気絶させたまま放置できない。
だから先ず、垨を御嶽神の御元へ送り届ける事にしたのだ。
「ごめんください。」
社の前で下ろすと地から出て、サササと毛繕い。それから声を掛けニコリ。
「はい。」
御嶽の社憑き、喜知は烏の妖怪。チョットやソットじゃ驚かない、のだが見開く。
「鳰海神の使わしめ、潜です。狭間の地から人の世に出た時、兎さまを驚かせてしまいました。」
大木の根本から頭を出し、キョロキョロする水鳥と目が合えばドウなるか。
兎じゃナクても驚きマス。
「・・・・・・ハッ。」
垨が飛び起き、コテンと首を傾げた。
「あれ? 喜知がいる。社だ。」
「はい、御嶽社です。倒れた兎を咥えて、社まで送り届けてくださった」
「アァッ!」
それなりに強いが荒事を好まぬ自称、頭脳派の烏天狗が目を閉じた。
「毟りますよ。」
喜知、本気だ。本気の目だ。
「白兎じゃナイもん。」
野兎の隠が融合し、妖怪化したので茶毛です。
「皮を剥かれたい、と。」
ゾゾゾッ。
「ち、違いますぅ。」
と言い残し、シュタタタタァ。
「速いなぁ。」
脱兎の勢いにチョッピリ感動。
鳰海神は砂と水の神。海のように大きな湖から現れ出られた、狭間の守神でも在らせられる。
御力も強い。
「こんなトコロまで。」
湖に流れ込む闇が水面を漂い、ユックリと水底へ。
「あぁ、また生まれたのか。」
人から生まれても、人を食らわなくても合いの子は殺される。
「潜。悪いが急ぎ、耶万社へ。」
「はい。」
生まれる前に社を通せば、人と同じ時を生きられるカモしれない。
救われた合いの子は悪取社に引き取られ、明里で幸せに暮らせる。良く知られた話だが、社の外に広まらないのは当たり前。
祝の力が無ければ何も見えない、聞こえない。妖怪の国守が居れば良いが、その多くが人の世を逃げ出す。
生き辛いから。
「これからも無くならぬのか。」
争わず話し合い、助け合って暮らせば良いのに。
「さぁ、おいで。根の国へ送り届けよう。海や山より近いし、迷う事も無い。」
鳰海神が御手を広げ、御力を揮われた。吸い寄せられるように集まった魂が清められ、静かに旅立つ。