14-23 日に日に濃く、深くなる
モモは石楠花、桜とは違う。のだが花がブワッと散り、薄赤一色になった。
「モモさま。」
ハッと我に返り、微笑む。
「真中の七国から闇が溢れれば南国、中の西国、中の東国に流れ込みます。」
ポンと出た蕾が光を纏う。
「南国と中の東国は直ぐに祓い清められるでしょう。けれど中の西国は、纏まって日が浅い。」
長楕円形の葉がパタパタ。
「闇に強い私でも、この地は。」
照、ちょっぴり気怠げ。
鎮の西国と中の西国は海の向こうと繋がりを持ち、他では手に入らない品で力を付けた。真中の七国はソレを仕入れ、戦を仕掛けている。
笠国は内より外を見て、戦では奪えないモノに目を付けた。
真中の大王になるより、後ろで糸を引く大臣になろうと考えたのだろう。話し合いを選んだ五国を上手く纏め、話を進めている。
「濃く、なりました。」
多紀山から見下ろす鳰の海が、日に日に輝きを失っている事に気付いていた。
「鳰の海を囲む山が守るのは広く、豊かで水に困らぬ平らな地。それを奪おうと仕掛けた戦は、いつまで待てば終わるのか。」
照が溜息を吐き、湖面を見つめる。
アチコチから噴き出した闇が、もの凄い勢いで渦巻いている。このままでは闇が溢れ、闇堕ちするだろう。
その前に。いや、もう手遅れか。
祓えても清めきれず、数多の神が御隠れ遊ばす。
人が望むのは力。軍神が現れ出られ、嬰児と幼子の目から光が消えてゆく。
「騒がしいですね。」
「はい。」
現れ出られた神は望まれるまま御力を揮われ、闇堕ち為さって大騒ぎ。祀る人が居なくなれば、社が在っても残れない。
いつか忘れられ、そのまま。
真中の七国は幾年も戦が続き、祝の力を持つ人が生まれなくなった。だから強い力を求め、確かめもせずに攫って殺す。
奪えないのに奪えると信じ、殺し合う。それが人。と言われているが、どうなんだ?
「おや、まぁ。」
照が蜷局を巻き、赤い舌を引っ込めた。
「早過ぎる。」
モモがポツリと呟く。
多紀神と子神で在らせられる八柱が御力を揮われ、大祓の儀が執り行われた。
清らな風が山肌を撫でながら山裾の地へ。
勢いそのままに低い地をフワリと包み、スッと祓い清められたのにジュジュジュと焦げ、黒い煙にナリマシタ。
ねぇ、どうして? 多紀山はピッカピカだよ。
「統べる神は幾柱、御坐すのですか。」
ピクン。
「御隠れ遊ばし、代替わり為さる。」
コクン。
「では急ぎ。」
「はい。」
代替わり為さった神神が御力を揮われる前に、何としても御止めせねば!
日に日に濃く、深くなる闇を光に変える。そんな力を持つ人は耶万のアコだけ。アチコチから噴き出る闇を纏めて取り込み、光の雨を降らせてくれる。
きっと。




