5-50 出る、らしい
「なぁ、ノリ。」
「何だい、カズ。」
「ムロたち、来ると思うか。」
「来る。でも、カツは。」
「来てほしくない。」
「確かに。」
「早稲の、社の司。ちゃんと見せると思うか。」
言い難そうに、カズ。
「弱いが、愚かではない。隠さないだろう。」
ノリのカンは、当たる。
「そうだな。まずは、この冬だな。」
「この山は、冷えるからな。」
・・・・・・。
「何か、思い悩むことでも。」
ノリ、カズに問いかける。
「実はな、気になっていることがある。」
「何だい?」
「この山には、誰も住んでいない。おかしいと思わないか。」
「それも、そうだな。何か見つけたのか?」
「いいや。」
「この山、出るんだ。」
「シン、起きていたのか。」
カズ、ビックリ。
「まぁ、ね。」
「で、何が出るんだ。熊か、犲か。」
「お化けさ。」
「お化け?」
「そういう噂がある。」
朝が来た。皆で朝餉を食べ、割り当てを決める。お腹いっぱい食べて、ぐっすり眠ったからだろう。皆、晴れやかな顔をしている。
しっかり食べて、温かくして眠る。そうすれば明るく生きられる。子らを飢えさせるわけには、いかない。
いざとなれば、ゲンに助けてもらおう。隠れ里のことは、誰にも言えない。いや、ノリとカズには言っておくか。とりあえず、ムロかタケが来るまで待とう。
今、オレに何かあれば、良村は立ち行かなくなる。狩り人が一人、というのは、良くない。
「ウゥゥ、ワン。」 ダレカ、キタヨ。
「ん、シゲコ。誰か来たのか?」
「ワン。」 キタ。
「ヨォ、イヌ。変わりないか?」
「ワン、ワワン。」 アッ、ヒサシブリ。
シゲコは撫でられ、尾を振る。
「セン、良くココが分かったな。」
「まあ、な。カンだ。イヌは、シゲが引き取ったのか。」
「ああ。イヌじゃなく、シゲコだ。」
「ノリが付けたのか。」
「そうだ。」
「良かったな、シゲコ。」
ワシャワシャと撫でられ、勢い良く尾を振った。
山裾の地の外れ。少し森に入った辺りで、センに会った。口数は少ないが、強い釣り人だ。