14-18 急いで隠せ
倭国と飛国は、中の東国へ送った兵が戻ると信じている。
倭国から飛国に送られた兵は、ゴリと共に耶万へ向かった。
先に漕ぎ出した飛国の兵は、津久間の沖から火の山島を目指す。
港に入りたいが、近づけば矢の雨が降るだろう。少ない兵を減らせば、これからの戦いに障る。
だから、近づきたくても近づけない。
「見えたぞ! 火の山島だ。」
潮に乗り、何とかココまで流れ着いた。
「良かったぁ。」
水甕が空になった次の日、雨が降る。だから助かったが、もし天からの恵みが無ければ干乾びていただろう。
「入れるのか。」
火の山島は崖が多く、港は二つ。
会牧は使いを出し、許されれば入れる。けれど舟津は使いを出しても追い返され、許し無く入れば矢や銛の雨が降る恐ろしい港。
平たい地が少ないので、傾いている地に実の生る木を多く植えた。狩りや釣りも盛んで、山間に出で湯がある豊かな国である。
岸多とも結んでおり、戦いながら守れる国だ。
「会牧で水や食べ物を得られなければ、耶万へは行けないぞ。」
「舟津には入れないから、岸多との間にある水が無い島か岩で。」
「水が無けりゃ死んじまう。」
舟津は海と陸との境が、横に長く長く連なっている。浦を除けば直ぐに崖、攀じ登るのは難しい。
舟を寄せても海が上がれば浜が消え、荒波に吞まれて死ぬだろう。水の無い島に上がっても、強い風に吹かれて海ポチャ。
どんなに泳ぎが上手くても溺れ死ぬ。
「使いを出せ。」
「誰が行く。」
ガヤガヤ、ガヤガヤ。
「死にたくない。」
「もう嫌だ。」
飛国の兵が狼狽えるのは当たり前。
皆、陸でしか戦った事が無い。加えて舟中りに苦しみ、頭がボゥっとしている。
モウとカンが見合い、ニヤリと笑った。
このまま引くのも進むのも良く無い。だから二人で会牧へ行き、水を貰えるよう頼み込む。舟に乗り込む前に話し合い、そう決めていた。
「ワシとカンが会牧へ行く。悪いが、アチラの舟に。」
モウが声を掛けると兵たちが黙り、隣の舟を寄せて掴んだ。海に落ちぬようソッと、一人づつ移る。
「ヨシ、出すぞ。」
櫂を手に、カンが一声。
「オウ。」
沖に兵を乗せた舟が集まり、騒いでいる。
会牧神の使わしめ、アツが陸に上がって人の姿に化けた。トテトテ走って会牧社へ急ぐのは、社の司に知らせるため。
会牧の社の司、ツガには心の声が聞こえる。
沖に居る人が何を考え、何を求めているのか確かめなければ港に入れられない。
「長、少し良いかい。」
「いま行く。」
アツから話を聞いたツガは、畑にいた長に声を掛けて笑う。その目を見て気付いた長が静かに近づく。
伝えたのは『外から悪いのが来るから、子と女を急いで隠せ』。『浦に水瓶を運び、奥に入れるな』の二つ。