14-15 持ち帰ったのは
呪いだ。霧雲山の統べる地を荒らそうと、奪おうとしたから殺されたに違いない。
このままでは皆、死ぬ。死に絶える。国が、大国でも滅ぶ。滅ぼされる。
「引きます! 霧雲山の統べる地には何も、何もしません。仕掛けません、攻め込みません。ですから御許しください。お願いしますぅぅ。」
生き残った臣や長が膝をつき、霧雲山の方へ頭を下げた。額を地につけ、幾度も幾度も繰り返し。
真中の七国の大王が破落戸に唆され、中の東国に兵を出すと知ったのは耶万社だけでは無い。
忍びが嗅ぎつけ、裏取りしてから広めた。
中の東国には多くの忍びが居る。けれど結んだり、繋がりを持つ事は少ない。理由は簡単。皆、生まれ育った地を捨てて逃げたから。
忍びぃズ、顎クイッ。
霧雲山の統べる地で暮らす忍びは、他の地で暮らす忍びと違って結んでいる。中でも良山で集う事を許された忍びは、いろんな意味で強い。
五つの忍び。
心消の里、沢出社の影。天霧山、矢弦社の雲。天立山、糸游社の月。月見山、水月社の桧。星海山、見空社の梟。
影と雲は良山、良村と協力関係にあり、五つの忍びが後見となったので決して裏切らない。
いや裏切れない。
良村と対対の忍びには上木の里、上木社の緋。樫の里、厳樫社の謡。良村、大蛇社を通して結んだのは嵓の里、嵓社の毒嵓。
他にも野比社の木菟、野呂社の鷲の目が居るが、何れも霧雲山の統べる地から出る事は無い。
木菟も鷲の目も獣谷と結んでおり、獣谷を通して良村とも繋がっている。
外で起きているアレコレを獣谷や良村を通して知り、祝辺の動きを裏で取り仕切る道を選んだ。
「古いのは倭国王、飛国王が残った。毒を飲ませるか嗅がせて、少しづつ弱らされている。」
緋は暗殺専門。真っ赤な毛、梟のような目を持ち、瞬殺をモットーとする忍びは夜行性。
「倭国は流れを読む。鎮の西国や中の西国から物や考えを取り入れ、弱いのを集めて頭で戦うだろう。」
謡は諜報に特化している。読心術を駆使したり、密に探って様様な情報を入手。変装も上手い。
「真中の七国が一つに纏まるのは良いが、倭国が鎮の西国や中の西国と渡り合えるかな。」
緋も謡も西国に行った事は無いが、海の向こうと遣り取りしている事は知っている。
持ち込まれた品を見たが、ドレも見た事のないモノばかり。耶万が取り上げた舟だって、とても大きくて強かった。
戦になれば、海の向こうから攻めてきたら。考えたダケで恐ろしい。
良山のように守りながら戦えるなら良いが、海から来るのとドウ戦う。海に罠を仕掛けるのか。
「戦に為らぬよう、静かに動いて守るのが忍び。」
「そうだな。」
暗殺専門の緋に言われ、謡が頷く。
「なぁ緋。倭国王と飛国王に盛られた毒とか、着ていた衣の切れ端とか有れば、少し貰えるかい。」
黙って聞いていた毒嵓がニコリ。
「毒は無いけど、布なら有るよ。」
持ち帰ったのは、大王が口を拭った布でした。




