14-14 預けちゃった
兵が、人が足りない。
戦、戦で多く失い、生き残りは瘦せ細った子だけ。動けるのは少ない食べ物を子に与え、そのまま弱って死んでしまうから。
「このままでは、いつまで経っても。」
耶万が憎い。ずっと前から仕掛けているが、その度に兵を失う。
「あの地は諦めたのに。」
中の東国、霧雲山の統べる地。山の奥深くに在るが、水が多くて豊か。
「はぁ。」
あの地に仕掛ければ、いや仕掛けようとすれば死ぬ。
これまで多くの大王が、酷く苦しみながら死んだ。だから手を出せない。
四つ国は、舟が無ければ戦えぬ。南国と中の東国は、山を越えれば何とか行ける。だから仕掛け続け、足りなくなった。
南から津久間、畏れ山、斑毛山の統べる地。
畏れ山は獣に守られ、食い殺される。斑毛山は越道山、津久間は大貝山と結んでいるのだろう。
仕掛けても仕掛けても押し戻され、残されるのは骸の山。
中の東国を奪うなら、その前に真中の七国を一つに。
兵を纏め、ドッと仕掛けなければ勝てん。ソレだけの事。なのだが、七つの国を纏める事など出来るのだろうか。
「申し上げます。耶万に組み込まれた国の生き残りが、耶万との戦いに勝てる道を知っていると。」
「ナニッ。」
王や臣と顔見知りでもナイのに、破落戸が大王に会えたのは皆、口が巧いから。欲しい言葉を欲しい時に、己の正しさを信じて疑わず発するから。
悦のモウに采のサゴ、大野のゴズ、光江のカンも安のゴリも乗せるのがウマイのだ。
耶万を落とせば強い国守、祝が手に入る。
大貝山を落とせば霧雲山まで直ぐ。霧雲山を落とせば、耶万のソレより強い国守や祝を動かせる。そうなれば真中の七国を纏め、一つにする力を得たのと同じ。
『王の中の王』に、『やまとを統べる王になれる』と囁かれ、真に受けてしまった。
「兵を預けよう。」
「ハッ。」
預けちゃったよ。口車に乗っちゃったよ、大王が。それなりに戦える若いのを、いろいろ持たせて。
縁の者がドロンとした目で、姿が見えなくなるまで見送った。残されるのは幼子、預かるのは年寄り。
戻れない、生きて会えない。なのに大王はゴキゲン。
「ハッハッハ。王に、王の中の王になれる。耶万を落とし、大貝山を落とし、霧雲山の統べる地を」
グラッ。
「大王、少し休まれては・・・・・・。」
大王の手から杯が落ち、酒を吸った地から甘い香りが広がった。
「毒ぅ?」
転がった杯を拾い上げた大臣がグワングワンして、頭からバタンと倒れる。
「ヒッ。」
大王と共に祝杯を上げていた臣の一人が、火に酒を掛けてしまった。その数秒後。
「グルジイ。」
大王の館に毒霧が広がり、のた打ち回る。
杯を置かずに落とすから、勢い良く落とすからドンドン濃く、深くなりバタバタ、バタン。
仕掛けたのは嵓の祝に仕える隠密集団、毒嵓。毒殺と瞬殺を専門とする通称、毒忍びがスッと姿を消した。