14-12 難しいな
伊弉冉社からは恕、祝社から隠の守が伺い、御知らせした事で大きく変わる。
御嶽にあった闇の道は断たれ、使わしめが苦しむ事は無くなった。
「垨。真中の七国には、出雲の神議りに呼ばれる神が少ない。」
「はい。」
「霧雲山、祝社も。」
「・・・・・・御嶽神、宜しいでしょうか。」
「ウム。」
「祝社に神は一柱も御坐しません。祝辺の守が山守の頂を守るため、建てられたそうです。」
キリリ。
「ナッ、なんと。」
霧雲山も多紀山も、多くの山がギュッと押し合って一つになったダケで、アチコチに頂がある。
多紀も豊かで大きく、水筋が鳰の海に繋がっているので溢れたり、ドドドと崩れる事は無い。
多紀に連なる山は何れも豊かだが、許し無く奥に進めば命を落とす。
御山の奥は麓や低い山と違い、里も村も無いので人も居ない。というより近づけないので暮らし易いと、人の世にいる隠や妖怪が口を揃える。
中の東国の真中に聳える霧雲山は、隠の世に聳える和山より小さく低い。けれど人の世では他より大きい。
麓は濃い霧に包まれ、許し無く立ち入れば生きて出られぬ恐ろしい山だ。
山守の頂には山守と祝辺、二つの村がある。
地が割れて祝辺が高くなったが、泉が多いので水に困らず、日当たりも風通しも良いので食べ物が良く育つ。
「御嶽は難しいが麓、いや低い山の頂に社を建て、祝の力を持つ隠を。ん?」
祝の力は死ねば、生まれてくる子に移る。なのに祝辺の守は死んで、隠になっても祝の力を失わぬ。
「御嶽神。隠から妖怪になった腰麻の祝が光の力を失い、新たに闇の力を得たと聞きました。」
「闇が光を、吞み込んだのか。」
クワッ。
戦に敗れ、耶万に連れ去られた祝は穢され、死にかけた時に憎しみを抱く。
暴れ狂った妖怪から他の隠を守るため、首に噛みつき殺した事で隠から妖怪になった。
怯む事なく戦い続け、祓い清められる事なく生き残ったユキは心から願う。連れ去られた腰麻の民を探し出し『救う力、癒す力が欲しい』と。
「腰麻の祝と同じ思いを他の祝に、とは思わぬ。祝辺の守は違うのか。」
「山守神の使わしめ、シズエさまより伺いました。腰麻の祝とは違いますが、こちらもナカナカ。」
山守の民が殺しまくった祝が隠になり、禍を齎すようになる。焦った山守の民が骸を整え、手厚く葬ったが手遅れ。
山守社に泣きついたが何も変わらず、山守の頂に石積みの社を建てて祀る事にした。
頂にも清水にも近づかぬのに、祝の隠は鎮まらぬ。山守の民は困り果て、額を集めて話し合う。
二夜三夜と時流れ一月の後、望の夜。死んだ祝の骨を集めて祝辺を作り、強い力を持つ祝に守らせれば良いと思いつく。
はじめは山守から通っていたが、清水の横に小さな家を建て、住込みで守らせた。それが後の祝社である。
「難しいな。」
「はい。」
多紀にも祝だった隠が暮らしている。根の国で話を聞き、己も戻れば祝辺の守と同じ事が出来るのでは。そう考えて。
何かが違うのだろう。未だ、人にも物にも。