14-11 下を向かないで
驚きはシナイわ。でもね、言わせて。
「懲りないわね。」
「へ。」
何なのよ、もう。そんなに耶万が憎いの?
戦を仕掛けて攻め込んで、アッサリ負けて滅ぼされた。社を通して、そう聞いたわ。だから真よ。
「流しちゃって。」
「はい。」
言伝の岩には、多くの社憑きが控えている。許し無く人の世に留まり、罪を犯した隠を根の国へ送るために。
「助けっ。」
ドコに流されるのか知らない。けれど死んでも。隠になっても苦しむのは嫌だ。
猿轡を填められ、ズルズル引き摺られ、着いたのは岩の洞。その奥に川が、ドドドと流れる川があった。
「ンムグ。」 イヤダァ。
芋虫のようにウゴウゴしても、思うように動けない。ココから逃げなければドブリと放り込まれ、ドドドと遠くへ流されるだろう。
「この川はな、根の国に繋がっている。暴れればソレだけ、長く苦しむ事になるゾ。」
そんな・・・・・・エッ、待って。
「ソォレ。」
二妖掛かりで放り込まれ、背中からドブン。もの凄い勢いで流され、滝壺でグルグルぐるり。
大祓が執り行われる前に入り込んだ、隠や妖怪の裁きが終わった。畏れ山、霧雲山、神成山に送られたのは、その多くがザッと流される。
今も裁きを受けているのは、乱雲山に送られたヤツら。
「多いね。」
祝社から乱雲山に送られた数を聞き、耶万の社の司アコが呟く。
「そうだね。で、どうする。」
アコの憑き蛇、照がシュルリ。
「使おうかな、耶万の夢。」
ステキな響きだが、致死率100%の猛毒デス。
「ねぇアコ。ドコにドウ使うの。」
蜷局を巻き直し、ワクワク。
「雲井社から知らせを受けるまでは、調べるダケで何もシナイよ。」
耶万に滅ぼされた国は、アコが社の司になるまで酷い扱いを受けていた。
アコが耶万王の倅だと知り、万が一に備えてイロイロ整えた国は一つ、二つでは無い。
耶万を見る目が変わったのは『王より社が強い』『社が認めなければ動けない』『王でも、社に逆らえば死ぬ』『裁きを受けて死ぬ』と広く伝わったから。
耶万に滅ぼされたが、生き残りが居る国は組み込まれた。
妖怪の国守が居る国は結び、社を通して腰麻や明里と繋がりを。他の国は耶万を通して支え、助け合う。
「采、悦、大野、光江、安の生き残り全てが悪い事を考えたり、禍を齎すんじゃない。でもね、そんな人が多いんだ。」
他の国は立て直し、子の数も増えた。足りない物は余っている物と換えっこし、冬を越せるよう努めて。
樵や狩り人が足りなければ、田や畑が獣に荒らされる前に来てもらう。海や川に近ければ、釣り人に子を預ける。
そんな付合いがアチコチで行われ、少しづつ豊かになった。
妖怪の国守や祝が居なくても、戦い守れる隠が居なくても助け合えば生きられる。なのに奪う事しか考えられない、そんな国が五つも残ってしまう。
「諦めちゃイケナイ。解っているのに、思ってしまうんだ。」
「アコ、顔を上げて。下を向かないで。」
「ありがとう、照。」