14-9 やっと落ち着いたのに
垨にドッと負の感情が流れ込み、パタンと倒れてしまった。隠の守、晄に抱っこされて御嶽社に運び込まれ、現在に至る。
「祝辺の守と守犬は、どちらに。」
キョロキョロ。
垨が助かったのは闇に囚われる前に、御嶽に繋がる闇の道が塞がれたから。
高い探知能力と強い闇耐性を持つ緤が全て見つけ、強い守りの力を持つ晄が潰して切断。その繰り返し。
「夜明け前に戻られたよ。」
「そう、ですか。」
垨は三日三晩、目覚めなかった。水を少しづつ飲ませてもらったので元気です。
晄が持ち込んだのは祝社の南にある冀召の水ではナク、頂の南に湧く清水。とても清らで美味しく、霧雲山銘酒『霧雲』の原料でもある。
醸造元は山守社では? 違います。
祝社と祝辺の愉快な仲間たちが心を込めてネ。うふふ。
「・・・・・・静かですね。」
いつもなら『戦に勝ちたい』とか『力が欲しい』とかイロイロ、頭の中に流れ込んで来るのに。
「生きた人を遠ざける事は出来ない。けれど御山を閉じたから、隠や妖怪は遠ざけられる。」
エッ。
「長い間、辛い思いをさせてしまった。すまない。」
「御嶽神! イケマセン。」
面を伏せ為さる神に、慌てて駆け寄り涙する。そんな使わしめを抱き上げ、スリスリ。
中の東国で大祓が執り行われた。その知らせはアッと言う間に、やまと全土に広がる。
南国と四つ国は直ぐ、和山社に使いを出した。御許しを得てから閉じ、杵築大社に事後報告。
鎮の東国も続く。
鎮の西国と中の西国は大慌て。真中の七国から隠がドッと押し寄せれば、またアチコチから闇が噴き出してしまう。
やっと落ち着いたのに困ります!
数多の神が御隠れ遊ばしたのは、真中の七国だけではナイ。鎮の西国と中の西国も同じ。
鎮の西国、郡山にある妖怪の町、瓢の民が力を尽くしてくれたからドウにかなったダケ。
ソッポ向かれたら終わりだよ。
「稻羽、どうしよう。」
大国主神、ゲッソリ。
「落ち着いてください。隠が向かうなら西国ではナク、豊かで静かな東国です。食べ物も水も美味しくて、静かでノンビリ出来ると聞きました。移り住もうかな。」
「エッ!」
「うふっ。」
半分くらい本気デス。
「い、稻羽ぁ。」
使わしめを抱きしめ、オイオイオイ。
御嶽社から祝社に戻った晄と緤は、仲良くスヤスヤ夢の中。夜型だからネ。
他の隠の守、守犬も大忙し。
真中の七国から押し寄せた隠を裁くのは、闇の力を持つ隠の守。捕らえた隠が逃げないように見張るのは、光の力を持つ隠の守と守犬。
他の守はイロイロ調べたり、霧雲山の統べる地を守っている。
「何だか騒がしいわね。」
山守神が呟き為さる。
「アチコチから裁きを受けるため、隠が祝社に集まって居ります。そのウチ静かになるでしょう。」
使わしめシズエ、九尾をワサワサしながらニッコリ。
「落ち着いたら御嶽社に、酒を贈ろうかしら。」
霧雲山銘酒『霧雲』、神神に大好評。