14-8 背筋ピーン
死んで隠になると根の国へ行き、裁きを受ける。人の世へ戻るのは、罪を償い許されてから。なのだが根の国へ行かず、人の世でアレコレする隠が増えた。
その多くが真中の七国で生まれ、死んだ隠。
中の東国で妖怪のイザコザ、国と国のアレコレを裁くのは乱雲山。霧雲山では無い。
分かり易く言えば大貝山、具志古、越道山、津久間、斑毛山は地方裁判所。
畏れ山、神成山、霧雲山は高等裁判所。
乱雲山は最高裁判所。
真中の七国からドッと押し寄せる隠を捕らえ、地裁に送るのは神に仕える隠や妖怪。
バンバン裁いて根の国へ送るが、扱いに困る隠は高裁へ。高裁でババンと裁かれ根の国へ放り込まれるが、扱いに困る隠は最高裁へ送られる。
で、根の国へ叩き込まれマス。
この度の事、数が多過ぎて祝も禰宜もフラッフラ。山を挙げて支えているが、このままでは揃ってバタンと倒れてしまう。
「中の東国で近近、大祓が執り行われます。許し無く人の世に留まる隠は皆、裁かれる事なく祓い清められるでしょう。」
そうなれば戻れないし、次を生きる事も出来ない。
「今のトコロ、人の世から隠の世へ行く隠は居ません。けれど何れ。そうなれば、お分かりですね。」
隠の世が閉ざされれば、決まりを守って真面目に生きる隠や妖怪が迷惑を被る。
「ハイッ。」
御嶽神の使わしめ垨、背筋ピーン。
困った! アチコチで闇が噴き出し、溢れた時もギリギリだった。
あれから数多の神が御隠れ遊ばし、真中の七国で大祓など・・・・・・。執り行えるのか?
いや執り行わねば、きっと恐ろしい事になる。
中の東国に行けないと知った隠たちが、次に向かうなら南国か四つ国。その次に向かうのは鎮の東国。
何れも迷わず閉ざすだろう。
「・・・・・・、・・・・・・ますか?」
「ヒャイ。」
「数多の神が御隠れ遊ばし、御困りでしょう。」
「仰る通りで御座います。」
シュン。
「真中の七国と中の東国の境に、妖怪の国守が集められました。あっ、始まりましたネ。」
御嶽から鳰の海を望む地は、中の東国も見渡せる絶景スポット。
真中の七国から出た隠たちが纏めて、妖怪の国守に成敗される。と同時に大祓の儀が始まり、東の空がパァっと明るくなった。
鳰の海がキラキラ輝き、ウットリするホド美しい。
御力を揮われるのは津久間神、大貝神、具志古神、渦風神、高志神、斑神、火炎神、山守神。悪取神の九柱。
「ギャッ。」
中の東国に近づけば消える。瞬時に気付いた隠たちが戻ろうとするが、思うように動けず消滅。絹を裂くような悲鳴が、垨の頭にガンガン響く。
「ワン。」 ウゴカナイデ。
緤が右の前足で、垨の額をポンと押した。
「あぁぁ。」
闇がグングン吸い出され、スゥっと楽になる。
・・・・・・あれ?
「も、垨ぃ。」
パチクリ。
「御嶽神、御気を確かに。」
「痛いトコロは、食べたい物は。」
「はい、御座いません。ありがとうございます。