14-7 隠忍びの次は
信じられない。人は何と罪深く、醜い生き物なのだろう。
いや待て待て。死んで隠になっても、守りたい何かを守るために妖怪になる人も居る。
そのまま人の世に留まり、妖怪の国守として力を揮う。そんな国守が居ると聞いた。
「考えても分からないモノは分からない。」
とはいえ、このままではイカン。
「と思ったら、はぁ。また来た。」
揃いも揃って戦、戦。戦に勝ってドウする。真中の七国はドコも貧しく、ボロボロだ。立て直そうにも人が居ない。
人が居なければ田や畑に手を入れたり、食べ物を集める事も出来ないのに。
「奪う事しか考えんのか。」
荒れ果てた国を奪い取っても、使えるようになるまでイロイロ要るぞ。
「みぃつけた。」
ピョンピョンしながら狙いを定め、タッと駆け出し勢い良く蹴る。
「・・・・・・うん。」
耳をピンと立て、潰れる音を聞いてから頷く。
多紀は険しく、辺りが暗くなるホド青青と茂っている。一蹴りすれば切り立った崖まで、木の根に引っ掛かっても止まらず、ズルズル滑ってドーン。
一蹴り二蹴り、三蹴り四蹴り五蹴りして、やっと静かになった。崖下には首の骨を折った骸がゴロゴロ。
多紀で暮らす獣たち、大喜び。
「おや、日の入りだ。」
アチコチから入山し、頂を目指す不届き者をセッセと蹴り落とす兎サン。夜の闇に包まれパチクリ。
「こんばんは。」
ホエッ。
「とても落ち着く、良い闇ですね。」
エッと。
「中の東国、霧雲山。山守の祝社より参りました。祝辺の守、晄と申します。守犬の名は緤。」
「ワン。」 セツデス。
晄の横に立ち、一吠え。
八に精神崩壊させられた黒い犬は晄に引き取られ、キズナを意味する緤と名付けられた。八を毛嫌いしているが、他の守には愛想よく尾を振る。
祝辺で飼われるのは狩り犬。
白い犬は祝社に引き取られ、いろいろ学んで守犬になる。黒い犬は鎮森の大木に繋がれ三つ、夜を明かせなければ生きられない。
緤は幸運だった。生き残れば闇の力を持つ守に引き取られるが、その多くが育つ事なく隠になる。八に引き取られた犬は壊され、闇堕ちして牙を剥く。
そうなれば終わり。
「深く濃い闇を纏っても死なず、光を宿すとは。」
垨が鼻を近づけ、ピョンと後ろに跳ねた。
「幸せな犬ですね。」
緤は高い探知能力と強い闇耐性を持つが、祝の力で守らているので手を出せない。
晄は十七代、祝辺の守。日光に弱く、夜にしか出歩けないが強い守りの力を生まれ持つ。
守犬を育てるのは初めてだが、黒い仔犬を見て直ぐ『飼います』と断言。ひとつ守から奪うように抱き、守りの力を揮う。
神経衰弱と不安神経症に苦しんでいた仔犬はスッと楽になり、恐る恐る目を開く。そこに居たのは真顔だが、優しい目をした隠の守だった。
「隠になった真中の七国の民が、中の東国でイロイロと。乱雲山だけではドウにもならず、こちらへ。」




