14-6 勝つためなら
死ぬのかな、いや死ぬ。
大王、大臣も何を考えているのだろう。中の東国は強い。近海とか大浦とか、岸下とか氛冶とか万十とかイロイロ。
新しい国だが明里ってのは、近づいたダケで殺される。そう聞いた。
「はぁ。」
このままココに居ても、きっと長く生きられない。でも舟に乗せられ、遠くの地で死ぬのは嫌だ。
「喜べ。戦に勝てば腹が破れるまで、美味い物が食えるぞ。」
真中の七国はドコもギリギリ。中の西国は、どうだろう。豊かなのは中の東国だけど、どう考えても勝てない。
「どうした。」
ドウもコウもナイよ。
多紀に連なる御山は多いが、御嶽に御坐す御嶽神は戦嫌い。
使わしめ垨は兎の妖怪。日課は人に化け、山を荒らす生き物を谷底に蹴落とす事。言うまでもなく、その大半が人間。
モチロン治めの神で在らせられる、多紀神から御許しをいただいてマス。思い切りピョンピョン出来るヨ。
「戦に勝ちたいだ? ハッ。」
後ろ足をテシテシしながら毒づく。
「見りゃ分かるだろう、山神だ。」
叶うかドウかは知らんが、願うなら軍神に願え。
「ゲッ、また来た。」
見た目は可愛い兎チャン。ピョンと跳ねてから、思い切り蹴り落とす。蹴って蹴って蹴って、また蹴った。
「ふぅ。まっ、こんなモンかな。」
鳰の海を一望できる、開けた地で一休み。
「♪ 高く大きな御山には いろんなモフモフ住んでいて 清らな心で生きてます♪」
多紀のテーマソングを熱唱。
「ヨシ、戻ろう。」
真中の七国と呼ばれるようになってから、数多の神が現れ出られ御隠れ遊ばす。
人の世では多紀神が治めて御出でだが、人がヒョイヒョイ登って良い山では無い。なのにドンドン、バンバン押し寄せる。
「ん。」
人では無い。けれど、この感じ。
確か中の東国、霧雲山の統べる地に聳える天霧山。その頂に矢弦神が御坐す。
社の離れには祝が居て、その祝に仕える忍びが『雲』。隠や妖怪など、見えないものを見る力を生まれ持つ。人なのに恐ろしく強く、熊でも軽く倒すとか何とか。
「忍びですが、雲ではアリマセン。」
あれ、もしかして。
「はい、聞こえます。先触れも無く伺い、申し訳ありません。伊弉冉尊より言伝を預かり、参りました。恕の隠頭、投です。」
ニコリ。
「・・・・・・ね、根の国に御坐す。」
「はい。」
ウッカリしていた。
バンバン蹴り落として片付けたアレが、直ぐに死なずに闇堕ちしながら根の国へ。で、大騒ぎ。
『このまま人の世に戻れば、きっと戦に勝てる。だから今すぐ、根の国から出せ』だ?
何を考えている。
死んだんだ、隠になったんだ。裁きを受けて罪を償い、許されるまで戻れない。なのにイロイロすっ飛ばし、戦に出たいと。そう言うのか。
「申し訳ありません。」
これからはキッチリやって、確かめてから送ります。