14-5 妖怪の国守
真中の七王が何を狙っているのか分からない。
けれど闇喰らいの剣が鎮の西国から、中の東国へ持ち込まれた事は広く知られている。
「采、悦、大野、光江、安の民が考える事は同じ。真中の七国を引っ掻きまわし、中の東国で暴れさせる。その間に剣を奪い、『やまと一の大王に』と。」
うわぁ。
「飛国から舟を出しても、休まず進むのは難しい。だから明里か加津に仕掛けて、いろいろ奪おうとするでしょうね。」
ゾゾゾ。
海から吹出山へ向かうには、明里と加津の間を流れる大磯川を上がるしかナイ。
明里には松川の奥にある松田か、浦辺の港から。加津は港から入る事になるが、何れも隠や妖怪が守る地。
明里にも加津にも寄らず、そのまま川を上がれば千砂の国守が力を揮う。どんなに強い兵が乗っていても、妖怪の国守には勝てない。
切り抜けられたとしても満身創痍で、ガタガタ震えながら死ぬ事になる。
「命は一つしかナイのに、どうして死に急ぐのでしょう。」
「生きるのが辛いから、でしょうか。」
黒狼に問われ、蜘蛛が答えた。
耶万に仕掛けてアッサリ破れ、根絶やしにされた国は多い。生き残りは新しい『耶万の夢』を試されたり、奴婢として売られたりイロイロ。
戦う力を持つ国は耶万に組み込まれ、耶万を強くするのに使われ続けた。耶万王が死ぬまで。
「釣り舟が沈められる事はアリマセン。けれど兵を乗せた舟が沖に現れれば、浦頭に呼び戻される。妖怪の国守が動きます。」
ウコは知っている。妖怪の国守が、どんな思いで戦っているのか。何を考え、何を思って生きているのかも。
「多くの命が、失われるのでしょうね。」
使い蜘蛛が遠くを見つめる。
「妖怪の国守は守りたい何かを守るために戦い、死んだ人。隠では守れず戦えず、妖怪になった。闇堕ちを恐れず力を揮う。それが妖怪の国守。」
ウコの目が光る。
会岐、大石、加津、千砂の国守は合いの子を引き取り、慈しみ育てている。その子らは大きくなったら国守になると、人を守るために力を揮うと言い切った。
だから長も頭も他の人も皆、合いの子だからと遠ざけない。
人の世に在る隠の国、明里だって似たようなモノ。
長は人だが王は隠。悪取神は闇の中でも扱いが難しい『獣の力』『滅びの力』を受け継ぎ、加えて『悪取の力』を授かった元『犲の里』の祝。
他では生き難い、そんな人を多く受け入れ為さった。
明里の合いの子と、妖怪の国守に引き取られた合いの子は違う。
明里の合いの子は悪取神の御力で、人と同じ時を生きられるようになった。けれど人が暮らす村ではなく、悪取社の離れで暮らしている。
人には出来ない事を教わり、人を守る術を学びながら。
「・・・・・・そう、ですか。」
話には聞いていましたが、ソコまでとは。
明里に近づけば融かされるので、社を通すか千砂社を頼るんです。
「海社へは。」
アッ!
「吹出社を通られますか。」
「はい。」
使い烏を呼び寄せ、吹出社へ御案内♪