14-4 言わないで
中つ国と根の国の境に、三つの神倉が建てられた。
耶万の神倉に納められているのは、人の世で『王の剣』と呼ばれる闇喰らいの剣。別名、叢闇剣。
叢闇の名を持つ品は全て、海を渡ってきたモノ。
はじまりの隠神で在らせられる大蛇神にも、アンリエヌの化け王にも消滅させられない危険物が大貝神の使わしめ、土の糸で巻かれて安置されている。
見張りを務めるのは子蜘蛛たち。
夜勤、早番、日勤、遅番の四交替制。有事の際に緊急対応、掩護、応援要請するため必ず、三妖で任務にあたる。
洞穴内に設けられた詰所からは、伝声管ならぬ伝声糸が大貝社のみならず、和山社にまで延びてマス。
「津久間社と悪取社にも使いを出しました。」
エッヘン。
「ウム。では引き続き。」
「はい。お任せください。」
胸を叩くツモリが腹を叩き、ぽよよん。幼児体型? 言わないで。
「土。使い蜘蛛を悦と光江、吹出山へも向かわせよ。」
「ハイッ。」
吹出山の頂には『叢闇品を納めている』と思わせるため、空の神倉が建てられた。保全管理を担うのは吹出の社憑き、ウコと愉快な黒狼たち。
普段は麓にある社ではなく、吹出山で生活している。
ウコは妖怪の黒狼、黒狼族の長。どんな時も群れを率いて行動する。
詳細は省くがウッカリ食いかけたのが吹出神で、使わしめ羽葉に本気を出させてしまった。
当時の黒狼はフラフラで、戦う力など残ってイナイ。対する烏は元気いっぱい。戦えばドウなるか、火を見るよりも明らか。
ウコは助命の対価として社憑きとして働いているが、裏切れば・・・・・・極刑。烏の大群に突き殺されマス。
「そう、ですか。」
使い蜘蛛から話を聞いたウコ。その頭上には、無数の疑問符が浮かんでいる。
「何か、気になる事でも。」
使い蜘蛛に問われ、キリッ。
「吹出山の北にある大野、川向こうにある安と采の動きが気になります。狩り人や樵に化けて、この辺りをウロウロしているのを見掛けました。」
吹出神の使わしめ、羽葉は大烏の妖怪。犲に食われそうになっていた何かを助けたら、何とビックリ神様でした。
そのまま放っておけず、吹出神の使わしめとして社に就職。
黒狼の数は少ないが烏の数は多く、隠と妖怪が対になって巡回。不審者を発見すると隠烏が攻撃、妖烏が援護を担う。
魂を突くダケで殺しはシナイ。
その様を見た黒狼は静かに離れ、その嘴に怯える。裏切れば一族郎党、皆殺しの刑だからネ。
「烏に突かれて穴が開いても、闇が埋めるので見れば判ります。采に安、大野の民はドロドロですよ。」
「おや、まぁ。」
ウコの話を聞き、使い蜘蛛が呟く。
叢闇剣、王の剣、闇喰らいの剣。いろんな呼び名を持つソレは、人に扱える品ではない。
納められたのは耶万の祝だったタヤと、タヤを心から慕う念珠が残した隠れ家。根の国から入り、大蛇神の抜け殻で作られた道を通らなければ入れない。
生者には侵入不可能。




