14-2 甘い、かな
大貝山の統べる地にある大国、耶万。大王や大臣は飾りで、国を治めるのは耶万社の人。
大王も大臣も臣も皆、社の司に闇の種を植えられている。だから決して逆らえない。
「アコさま、宜しいでしょうか。」
耶万の祝、ユイが社の司に声を掛けた。
「見えたのかい。」
「はい。」
ユイは清めの祝女と、波読みの祝人の間に誕生。
耶万から闇が溢れる前に逃げようとして見つかり、二親とも『先見か先読の力が有れば』と思いながら死んだ。
その願いが届いたのか、残された娘は先読の力を得た。
「真中の七国が戦に勝つため、多くの兵を求めます。大王たちは昔、何が起きたか忘れたのでしょう。中の東国に兵を送り、奪い取ろうと。」
また、ですか。
「そんな大王に悦、采、大野、光江、安の生き残りが近づき、倭国と結ぶ事になります。」
「倭国か。」
津久間の西にある大国は、これまでもイロイロやらかしてきた。その度に妖怪の国守が集められ、力を揮うが全て救えるワケじゃない。
「はい。アコさま、このままでは何れ。」
明里には悪取神が御坐す。その隣、加津と千砂には妖怪の国守が居る。近海、大浦は守りながら戦える大国。守りが薄く、陸に上がれる港は光江だけ。
耶万に滅ぼされた国は多い。
落ち着いた今も悪さするのは、あの五つ。悪い事を考えれば死ぬ。闇の種が芽吹き、プゥっと膨れた実が弾けるから。それでもヤツらは光江に集まり、願うのだ。
「揃って悪い事をしなければ生きられない、親から子へ受け継がれる呪いが掛かっているのかな。」
死んでも解けない強く、恐ろしい呪いが。
「そうなら纏めて。いえ、忘れてください。」
耶万社の、祝の力を持つ人すべてが同じ事を思った。けれど言えない。
「わかった。」
耶万に破れ、組み込まれた国の民は早く死ぬ。アコに闇の種を植え付けられ、光に変わるから。
なのに同じのが生まれる。幾度も幾度も諦めず、力を揮っても同じ事の繰り返し。もう『呪い』としか思えない。
清めの力を揮っても消えない、弱くも薄くもナラナイのだ。他に何がある。
「アコ。」
蛇谷の祝に憑く白蛇の隠、照が寄り添う。
「ありがとう、照。」
憑き蛇を優しく撫で、微笑んだ。
蛇谷は耶万に奇襲され、滅んだ小国の一つ。
アコの母、煇には光を飲み込む強い闇の力が有った。防御型だったのに滅んだのは、蛇谷の子を質に取られたから。内から壊されたから。
照は煇に頼まれ、アコが闇を使い熟すまで姿を隠していた。モチロン気付いていたのだが、何となく言い出せなかったダケ。そんなアコを支え、導いている。
「出来るだけ滅ぼしたくないんだ。甘い、かな。」
煇は幾度も耶万王に穢され、他の男にも。その結果、命と引き換えにアコを出産。生まれるまで誰の子か判らなかったが、記憶を闇に移して胎の子の魂に刻む。
「アコは煇に、とても良く似ているね。」