13-56 誓い
やまとの洞から祝辺へ。その深部と山守を行き来しながら、『山守断種計画』を続行。
「社の司。山守の地を守るには、山守神にぃ?」
「ん、何だ。」
「いけ、生贄をささささっ。」
「ササササ?」
村に戻った兵の多くが殺し合い、骸となった。数えるホドしか生き残らなかったが、その一人が山守の社の司に直談判。
その結果、カヨの呪い発動。
「多鹿に手を出せば殺されるぅ。」
相打ちさせる呪いだが、一人だったので自害。持っていた石器で首筋を切り、血の雨を降らせた。
「オイって、エッ。」
駆け付けた狩頭が、骸を見て固まる。
「社の前で、こんなコト。」
骸の傍で膝をつき、頭を抱えた。
「狩頭。山守で動けるのは、もう。」
「はい、社の司。幼子に狩りを教えます。」
山守の村に残った大人は、狩頭を入れて二人。
あの村長に逆らえず、兵になった男たち。守りたかった人は死に、残された子を育てようと決めた。のだが。
「恐ろしい。」
他から攫おうとか、誰かを嬲ろうとは思わない。けれど己に流れる山守の血が、いつか。
そう考えると怖くて怖くて死にたくなる。
「考えるな、ソダ。」
「けどよぉ、狩頭。」
「社の人が居るが、村で動けるのはオレたちダケ。」
「・・・・・・はい。」
ソダは若い樵。父母の考えが理解できず、家を飛び出して村外れで暮らしていた。
「幼子が育つまで、まだ時が掛かる。生き残った者の務めを果たそう。それが死んだ者への弔いになる、そう信じて生きるんだ。」
叶うなら山守を出て、山越で暮らしたい。けれど今、逃げ出せば子らが苦しむ。
己に出来る事は少ないが、山を育てるアレコレを教え、良い樵に育てよう。
他の里や村を襲ったり、攫おうと考えない。そんな人に育てば暮らし易くなる。子が生まれ、少しづつ増えて豊かになる。
それまで生きられるかドウか分からないが、他のヤツらと同じように死ぬのは嫌だ。
「心を強く持て。」
「ハイッ。」
狩頭は強い。死んだヤツらは『弱い』とか『頼りない』とか言っていたが違う。
アレだけ攻められ、逃げ帰ったのに戻れた。
狩頭の言うことを聞かず、突っ走ったヤツは死んだ。狩頭を悪く言うのも居たが、生き残ったのは言い付けを守ったヤツら。
村に戻ってから死んだケド。
「狩頭、オレ生きます。長く生きます。子らにイロイロ教えて、呪いにも負けません。」
「力を合わせて、生き抜こう。」
「はい。」
ふぅん。山守の民にも良いの、居たんだ。呪い種は植わっているケド、まだ芽吹いてイナイ。これからドウなるか分からない。
でも、このまま生きて欲しいな。
「ワッ、危ない。」
山守の村を清めるため、大祓が始まった。
大急ぎで離れ、鎮森に逃げ込んだカヨ。そのまま大岩の洞に戻り、一息つく。
「ふぅ。間に合って良かった。」
消えちゃったら、もう歌えないモン。
「ティ小、見守っていてね。」
きっと誰かの力に、助けになる。そう信じて歌うから。
大岩近くの大木から、ブランが音も無く飛び立つ。鎮森の民に見守られて。
洞の奥からカヨの歌声が聞こえると皆、穏やかな表情に戻った。
新生編でした。七国統一編に続きます。お楽しみに!