13-55 もう迷いません
とつ守に見守ると言われ、カヨの表情が明るくなった。
祝辺の、他の守がドウなのか分からない。けれど山守より霧山を、祝辺より鎮森を守ろうとする隠の守に認められたのだ。
ほんの少しでも心が軽くなるのは当たり前。
「山守は、もう良いか。」
山守の民にはタップリと、闇の種を植え付けた。
戻った兵も片付いたし、狩頭は他と違って生き残りを育てようとしている。
「となると。」
次に狙うは山越の民。
祝辺の民にも闇の種を植えたいが、とつ守が見捨てるまで待つ。
「ん。」
この感じ。
大岩の洞から顔を出し安全確認。スルスルと岩の上に移動し、周囲を見回す。
「あれ?」
何かに見つめられている。そんな気がするのに、その姿を見る事が出来ない。
「思い違い。」
では無い。パチパチ瞬きしてから目を擦り、クワッと見開く。
「アッ。」
赤い目をした白い鷲に見つめられ、ドキリ。
大きな力に守られている。はじまりの隠神。いや、もっと強い何か。となると化け王の臣、ブランさま。
ずっと昔に聞いた。霧雲山の全てと、山裾の地を見張っていると。
どうする。山守の民を根絶やしに、と考えて動いた事が知られたのか。それは化け王の御考え、御望みでは無いなら。
だとしても変えられない。
「わ、私は。」
己と同じ苦しみを、あんな思いを他の誰にも味わわせたくない。だから他から攫った人を嬲り殺さなければ一つに纏まらない、そんな山守の民を根絶やしに。
そう考えた。
人を呪い殺すのだ、悪い事なのだろう。それでも止められない。
山守の民を生かせば、きっと同じ事を繰り返す。他から攫って嬲って、言えないようなアレコレを。
だから男を、山守の民を根絶やしにすると決めた。
「もう迷いません。」
カヨがブランの目を見て、断言する。
山守の民を根絶やしに、か。
他に移り住んだ民も片付けるのだろう。祝辺の守がドウ動くか気になるが、とつ守が認めたなら消される事は無い。
根腐れを起こせば除け、土に手を入れねば育たぬ。ソレを遣って退けるなら闇でも呪いでも、使えるモノは何でも使うさ。
「戻れ、ブラン。」
「はい。」
カー様はエン様が愛した地を、この山を守ろうと御考えだ。アンリエヌに組み込めば楽なのに、そう為さらないのは『見守る』と御決め遊ばしたから。
人の守を霧雲山の統べる地の長に据え、隠の守を動かしたのは己らで守らせるため。考えさせるため。
「き、えた。」
ブランが翼を広げる事なく、その姿を消す。
「はぁぁ。」
ヨロヨロ、ペタン。
「ヨシ! 続けよう。」
祝辺の奥深く、獄と祝社をクルクルしながら探る。それから山守へ向かい、闇の濃さや深さを確かめながら呪いを強めよう。