13-54 憎しみに呑まれた私には
八の犬は闇に呑まれ、己で考えられなくなっていた。
ボゲェっと空を見つめ、息をするダケ。そんなワンコが清められ、目に光が戻った。
「クゥン。」 カラダガオモイ。
「ヨシヨシ。このまま祝社で暮らすかい? 祝辺の誰かに、引き取ってもらおうか。」
・・・・・・。
「では隠の守。そうだね、晄に頼もうか。」
晄は十七代、祝辺の守。日光に弱く、夜にしか出歩けないが強い守りの力を生まれ持つ。
仕掛けられたアレコレを寝ている間に返すので、ヤンチャな守から恐れられている。
八に言わせれば、とつ守の次に厄介な存在らしい。
「クゥゥ。」 ネムイ。
ひとつ守の腕の中で気を失い、そのままグッスリ。
「おやすみ。」
抱っこしたまま祝社に連れ帰り、人の守に預けられた。
良く分からないケド、今のウチに。
「見つけた! とつ守。」
テイに闇を植え付けられ、鎮森で死ぬことを選んだ獣たち。骸から抜けた闇が集まり、結晶化した水玉を持ち上げたまま急接近。
「おや。」
スッと屈み、微笑んだ。
「この石は、そうですか。」
石にチョンと触れ、カヨの思いを知る。
「とつ守。この石をテイごと、弔ってください。お願いします。」
テイは白夜間神の使わしめ、雪花の狐火に焼かれて消えた。
残っているのは、この石一つ。白夜間社に持ち込めば何も言わず、消して無くしてしまうだろう。
けれど、それを望まない。
「私は、己と同じ思いをする女を無くしたかった。」
カヨがソッと石を置き、告白する。
山守の民は人を、攫った人を人とは思わない。男も女も、子にも言えないような事をして楽しむ。
『山守神に捧げる』とか『生贄を御求めだ』とか、『人柱にする』とか言って嬲り殺す。
山守の民が居なくなれば、根絶やしに出来れば多くの命が救われる。そう思ったから考えた。
頭が痛くなっても、眠れなくなっても考え続けた。
「それで、呪いを。」
「はい。」
祝の力なんて無いのに多鹿から攫われ、近くの森に連れ込まれて穢された。山守の獄に入れられても、ずっと。
死ねば終わる。そう思ったのに、死んでも続いた。骸が朽ちて匂うまで、幾度も幾度も繰り返し。
闇堕ちして呪い種になり、隠の世へも行けない。多鹿に戻れば禍を齎す。そんな気がして、怖くて近づけなかった。
きっと、これからも。
「謝っても、弔っても許されると思いません。けれど私は、憎しみに呑まれた私には。」
とつ守は黙ったまま、カヨを見つめる。
「山守の民を片付けたら、山越の民に仕掛けます。子や女が笑って暮らせる、そんな山になると信じて。」
山守や山越の民が死に絶えても、同じ事を考える人は現れるだろう。
けれど山守や山越の民が、どんな死に方をしたのか。長く長く語り継がれれば変わるハズ。
「思うように、お遣りなさい。鎮森の民と共に見守ります。」