13-52 憎しみは消えない
山守の民は生まれる前から歪んでいるのか、育つウチに歪むのか分からない。けれど闇の種が芽吹き、根を張るのが早過ぎる。
「どうしてテイは。」
九尾の狐の血を引くセイと、祝の力を持つヒサの娘として生まれた。
目の色も髪の色も薄く、血の管が透けて見える。そんな人でも隠でもないテイは、祝の力を持たずに祝になれた。
幾ら何でもオカシイ。
「山守だから?」
山守の社の司は、親から子へ受け継がれる。継ぐ子は祝の力を持つ子を集め、社の離れで守られて育つ。
禰宜は継ぐ子の中で、誰よりも賢い者が就く。
「あぁ、そうだ。」
テイが祝だった時は、今とは違っていた。
昔は他とは違う人を集め、神の意向をガン無視して生贄や人柱にしてきた。
山守と祝辺が分断後は『清き娘を捧げれば、祝辺を凌ぐ力を得られる』と信じて疑わなくなり、多くの命を奪う。
そんな場所だったからカヨは迷わず、祝に呪い種を受け付けられた。山守の民を根絶やしにして、己と同じ思いをする者を無くす。
そのために。
「テイは。」
山守の祝として働き、ポックリ死んだ。
「時が掛かったなぁ。」
ずっと、ずっと呪い種を植えていたのに、なかなか芽吹かず頭を抱えたモノだ。
テイが死んで、やっと。
呪いが動き出した。
肉体は滅んでいるのに魂ダケが残り、山守の祝を操り続けたのだ。テイが憑くようになると呪いにより、歴代祝は力を喪失。
これまで以上に生贄や人柱を求め出す。
社の司と禰宜、最後の祝となるヨキが密約を交わし、テイが消滅するまで祝選定を中断する事になった。
「そろそろ選んでも良さそうなのに、どうして。」
山守の民を根絶やしにする、とても良い呪いを見つけた。ポンと植え付け、そのまま放っておけば実をつける。
「そうか。」
山守社の人に植え付ける気は無い。けれど知らないから、選びたくても選べないんだ。
憎しみは消えない。たった一度、抱いてしまったら終わり。死んでも残って苦しめられる。
「このまま。」
どんなに悔いても戻らないし、謝りたくても謝れない。無かった事に出来ないから、消えて無くなるまで背負い続ける。
「これからもティ小のうた。」
歌っても良いのだろうか。
「♪ 闇の中一人うた歌うよ ティ小は何時だって 夢を忘れない♪」
鎮森の民が、子らが歌っている。ティ小の、最後のうたを歌っている。
「♪ 止まない雨は無い 明けない夜も無い いつだって光は心の中♪」
楽しそうに、跳ねるように歌っている。
・・・・・・ごめんなさい。
ティ小が掬い損ねた闇が望月湖に流れ込み、時間を掛けて融合したのが分ティ。
毬藻状態から鱒に憑き、分ティ魚。分ティ魚から狸に乗り換え、分ティ狸ィ。
狸が死ぬ前に逃げ出し、毬藻に戻って遣り直し。分ティ魚から出て鹿に憑き、分ティ鹿。分ティ鹿から人に乗り換え、分ティ人となる。
最後に憑いたのが山在の巫、明日。ティ小を吸収し融合成功後、器が持たず崩壊開始。
慌てて狸に憑くも雪花の狐火に焼かれ消滅。
明日は今も、あの洞で。