13-51 巻き込まれる前に
清めの力を持っていたツルは、隠になっても山守を守ろうとした。けれど山守の民に見切りをつけ、鎮森の民として暮らしている。
願いは一つ。山守や祝辺から、強い力を持つ子を守る事。
光の鏡は乱雲山、光の珠と剣は鎮野にある。選ばれた子が身に宿し、取り出される事なく受け継がれるだろう。それで良い。
天つ神の御力が込められた品が、とても清らな力が人の世に齎されたのだから。
「いつか、この地に舞い降りる。」
そんな気がする。
「その時は鎮森の皆で、力を合わせて支えよう。」
鎮森は人を選ぶ。木も岩も、土も水も風も全て。祝辺の守を選んだり、他から逃げ込んだ人を守ったりする。
そんな森を荒らそう、乱そうと考えるのは山守の民だけ。
だから迷わせ、谷に落とすのだ。
「ツルさま。」
「おや、ヨキ。もう良いのかい。」
カヨが歌うティ小のうたは、鎮森の民に愛されている。恕や靄山隠、雲が聞きに来るコトも。
「はい。ツルさま。山守の民は、もう。」
「そうですね。」
山守は人の長である、社の司が治める事になった。なのに村長が兵を集め、許し無く御山を下りた。
川を下って嚴山に入るも、仕掛ける前に仕掛けられたと聞く。
そのまま逃げ帰れば良かったのに、隠れ里を二つも襲った。いや攻め込んで逃げ帰り、その数を減らして戻る。
山守の民は呪いで死に、生き残ったのは嬰児と幼子。なのに、その子らを。
「呪い種を植えられた山守の民が、このまま静かに暮らせるとは思えません。けれど、あの呪いは。」
多鹿に禍を齎そうとしたり、多鹿の人を攫おうと考えれば芽吹くモノ。
「生き残った子は残らず、人の長である社の司が育てるでしょう。祝の力が無ければ継ぐ子にはなれません。」
「はい。」
分かっている。けれど生き残りの中には、あの長と同じ考えを持つ人もチラホラ。
「ヨキ、そう難しく考える事は無い。戻った兵は死ぬ。」
「エッ。」
「子が暮らす家、戻った兵が暮らす家。その闇を見れば判る。また骸を焼く煙が高く、高く上がるだろう。」
翌朝、顔を洗おうと外に出た子が腰を抜かす。
生きて戻った兵たちが、家の回りで死んでいたから。腹を差し違えて、重なるように死んでいたから。
「うぅん、よく寝た。」
大岩の上に出て、グインと背伸び。
「おはよう、ティ小。」
ティ小は、もう居ない。けれどカヨは毎朝、欠かさず声を掛ける。
「ん、この感じは。」
カヨが地に潜り、山守の村へ向かう。とても濃く、深い闇が噴き出すのを感じたから。骸からなら良いが、地から噴き出していたら大事だ。
「うん、違う。」
地の中をグルグル回って調べ、闇溜まりが無い事を確かめる。それから顔を出した。
「おや。」
骸から濃い闇が噴き出し、渦を巻いているのを見た継ぐ子が瞬きし、山守社へ駆け出した。
「巻き込まれる前に戻ろう。」
スッと潜り、サッサと進む。