13-50 上手いモンだな
山守の民に嬲られ、殺された隠が抱くソレは濃い。祓っても祓っても祓い切れない。そんな闇が、ほんの少し薄くなった。
「調べるか。いや、止そう。」
山守の社の司が立ち上がり、離れから出た。
鎮森の奥で何が起きたのか。分からないが、きっと悪い事では無い。
「多鹿に手を出せば殺されるぅ。」
・・・・・・ん。
「おや、早かったね。」
「シズエさま。」
「アレは呪いさ。呪い種を吸い込み、ソレが芽吹いて根を張った。」
「という事は、山守社の人も。」
山守に限らず、社で暮らす人は守られている。呪われる事は無い。のだが、この呪いはカヨのモノ。
テイを呪い祝に変え、多くの命を奪った強い呪いだ。気を抜けば祝の力を持っていても死ぬ。
「御山から出ねば、他から奪おうと思わなければ生きられる。」
モフン。
「そう、ですか。」
山守の民が多く死に、生き残ったのは嬰児と幼子。あの子らが十二になったら、同じように死ぬのだろうか。殺し合うのだろうか。
呪い。呪い種は山守の民を、山越の民も消してしまおう。殺してしまおうと考えている。なら、私に出来る事は何だ。
生き残った子らを守り、導くコト。
「落ち着けば動く。それまでは、分かるな。」
「はい。」
呪い種は鎮森に潜んでいる。祝辺の守は知っていて、いや認めているのだろう。人の守ではナク隠の守、とつ守かな。
あの守は祝辺では無く、生まれ育った霧山を守るために動くそうだ。
鎮森の民となったツルさま。山守社の、はじまりの祝から伺った話だ。真だろう。
「♪ 諦めず出来ることをして 俯かず上を向いたなら 何か良い事が起こる そんな気がするのよ 泣いてはイラレナイ♪」
大岩の洞で琴を弾きながら、楽しそうに歌うカヨ。鎮森の民もノリノリ。
「ティ小のうた。」
上手いモンだな。
「それにしても。」
来る度に明るく、過ごし易くなっている。
矢弦社の忍び、雲が微笑む。
天霧山にも明るい隠が居るが、琴を弾きながら歌う隠は少ない。ティ小のうたを教えたら、きっと喜んで歌うだろう。
けれど、その前に片付けなければ。
「ツルさま、こんばんは。」
「こんばんは、忍びさん。」
雲は他の忍びと違い、見えないモノを見る目を生まれ持つ。だから人にしか出来ない、叶えられないアレコレを頼む事がある。
「良い夜ですね。」
光の子は皆、ノビノビ暮らしています。
「はい。とても過ごし易く、気持ちが良い。」
ありがとう。幸せそうで、ホッとしました。