13-49 呪いだ
カヨがティ小のうたを歌い始めてから、鎮森に吹く風が優しくなった。と言っても、それは森の中だけ。
山守の地は息をするダケで疲れるような、濃く深い闇に包まれている。
「何が、何が起きた。」
やっとの思いで戻ったら、民の多くが死んでいた。生き残りは幼子と嬰児。
「あ、狩頭だ。」
「肉。肉たべたい。」
幼子がフラフラしながら近づき、ボロボロになった衣を掴む。
「日が当たるトコロに植えても、芋も豆も育たない。食べ物は貰えるケド、キュルキュル鳴るんだ。」
祝辺から月に一度、届けられる食べ物を受け取るのは山守社。社の司と禰宜が皆に渡るよう調べ、離れで配るので誤魔化せない。
これまでは思い通りに出来たのに、もう好きに出来ないと知り、男たちは憤る。
「頭。アイツら纏めて生贄にして、社のヤツらを消しましょう。」
「女が居ないのに、どうするんだ。」
「えっ。」
「山守を潰すのか、と聞いている。」
「い、いいえ。」
「なら黙れ。少し休んだら森へ行き、狩りをする。良いな。」
「はい。」
山守の地は崖の下、それも北にある。
日当たりも風通しも悪く、土まで痩せているので祝辺からアレコレ貰わなければ、山守の民は生きらない。
同じ山に在るのに、崖の上にある祝辺は豊かだ。
ずっと昔から幾人か、あの崖を登ろうとした。けれど川から地涯滝に流され、そのまま落ちてしまう。
「ワシらは死ぬまで、山守から。」
山守の外に出る事は出来るが、山守の外では生きられない。そんな呪いが掛けられてる。幼い時、母から聞かされた。
「認めたかナイが、そうなんだろう。」
もう疲れた。
村長に言われるまま兵を引き連れ、隠れ里を襲った。女を攫い、連れ帰り、ボコボコ産ませるために。
「山越に頼るか。」
いや、きっと断られる。生きて戻れない。
「フッ。」
この村で出来る事をして、この村で死ぬのか。ソレも悪くナイ。
「多鹿に手を出せば殺される。」
「多鹿に手を出せば殺されるぅ。」
・・・・・・エッ。
「狩頭! 殺し合いが、殺し合いが始まりました。」
生き残りの一人が家に飛び込み、しゃがみ込む。
「何が起きた。何でソウなった。」
「分かりません。アッ。」
「何だ、言え。」
「殺し合う前に『多鹿に仕掛ければ』と。で『そうしよう』と言ったのが向かい合って、それで。」
あぁ、呪いだ。死ぬんだな。
「頭、逃げましょう。山越なら」
「いや、追い返される。」
山越の長は母や姉を生贄に。だから山守を、山守の民を嫌っているんだ。
「終わりだ。もう終わりだぁぁ。」
「泣くな、立て。この地には山守社がある。祝辺に捨てられる事も、潰される事も無い。」




