13-46 守るため、迷わず
山守の民が死んだ。生き残ったのは山守社の人と、狩りや釣りに出ていた人。
村には数多の骸が転がり、その傍で嬰児を抱いた幼子が立ち尽くしている。
「な、にが。」
山守の禰宜が呟く。
「呪いでしょう。」
社の司が言い切った。
山守社の人が生き残ったのは、祝の力を持っているから。では無い。山守神の使わしめ、シズエの狐火に守られたからだ。
幼子と嬰児が生き残ったのは、カヨに選ばれたから。では無い。いつか『多鹿から』と思った時、呪い種が芽吹くダケ。
「燃やしてから埋めましょう。さぁ皆、掘りますよ。」
「はい。」
社の司に言われ、継ぐ子たちが駆け出した。
鍬やら鋤やらを持ち出し、セッセと穴を掘る。
骸を並べたら薪で囲い、薪と藁を被せて泥を薄く塗り、火を点けて離れて待つ。火が回ったら次。
山守の民は減っていたが、それなりに居た。火が暮れる前に焼かなければ、獣が集まり食らうだろう。だから早く、少しでも早く弔わなければイケナイのだ。
生き残り全てが山守社、社の離れに入りきらない。獄を入れても足りないから。
「おや、減りましたね。」
人が焼ける匂いが風に乗り、祝社に届く。
「村の真中から煙が、あんなにも多く上がって。」
山守は崖の下、祝辺は上にある。だから良く見えた。
山守の地から上がる煙を見ていた隠の守に、人の守が近づき微笑む。
「大崖を下って舟に乗り、滑川を下ったのが驚くでしょうね。」
暫く黙っていたが、ひとつ守が口を開く。
その目は恐ろしく冷たかった。
「向かいますか。」
「いいえ。」
とつ守に問われ、目を閉じる。
ひとつ守は強い清めの力を生まれ持つ。崖の上からでも闇が見えるし、纏めて清める事だって出来る。けれど動かない。
山守の村から闇が溢れる事も、闇が広がる事も無いと判ったから。
山守神が御力を揮われたのだろう。闇が渦を巻いてもオカシクないのに、とても清らで澄んでいる。
「とつ守。大崖を下った山守の民、いえ。」
「迫の里を回り、嚴山に入ろうとして逃げ出します。迫に助けを求めるも追い返され、そのまま戻れず熱吹へ。アッサリ捕らえられ、獄に放り込まれました。」
「そう、ですか。」
「はい。ひとつ守、向かわれますか。」
「いいえ。」
熱吹は沼垂の隣に在る。平良に乗れば行けるが、あの地には近づけない。熱吹の獄で暴れれば沼垂に近づき、そのまま落ちると聞く。
平良の烏は隠ではナイのだから。
隠烏に、という手も有るが止そう。
沼垂神は狭間の守神で在らせられる。御怒りに触れれば大事だ。
「山守の民は殺し過ぎた。生きて出られても、その数を減らすでしょう。迫も熱吹も嚴山から知らせを受け、備えていましたからね。仕掛け、いや攻め込まれる前に片付けます。守るため、迷わず。」